ベラ科のホンソメワケベラは全長約12cmになり、千葉県以南の太平洋、インド洋に分布している。クリーナーフィッシュ(掃除魚)として他の魚類の寄生虫や食べかすなどを取り除く〝クリーニング〟はあまりにも有名。どんな魚でもクリーニングするので、天敵がいないとされている。

ホンソメワケベラの幼魚は、黒い体にブルーの線が口から背中後部まで1本入っている。幼魚期からクリー二ングを行う習性がある。
サザナミフグの若魚をクリーニングする約3cmの幼魚(柏島)

クリーニングを頻繁に行えばエサは十分だが、必ずしもそうはいかない。あるとき、ロクセンスズメダイの卵を食べているのを見かけた。卵は栄養満点のごちそうなのだろう。
岩に産み付けられた卵を食べるホンソメワケベラとオトメベラ(瀬底島)

本種は外見では雌雄の区別がつかない。オスがやや大きいだけだ。1尾のオスが複数のメスを支配するハレムを形成し、一定の範囲を縄張りにしている。生息密度が高い場合は縄張りが隣接することもあり、オス同士が顔を合わすと争いになる。互いに口を開けて威嚇するのだが、噛み合うことはない。昔は、相手にケガをさせたり殺したりするのは種にとって不利益になるからと考えられていたが、現在は自分のため、つまりエスカレートして自分がケガするかもしれないから抑えている、ということらしい。
威嚇し合うホンソメワケベラのオス(奄美)

繁殖期は初夏から秋で、オスが何度かメスにアプローチする。メスが産卵OKの場合は、体をS字のように曲げる。
メスのS字が産卵OKのサイン(奄美)

オスはメスを誘うように泳ぐと、メスはオスのそばに浮き、2尾は重なるような体勢で上昇する。そしてダッシュして放卵・放精したとたんUターンして海底に戻る。このときはとても素早いので、ちゃんと撮れたためしがない。それはさておき、天敵がいないはずなのになぜダッシュするのだろうか。ダッシュすることにより、エソなどに〝捕食〟スイッチが入ることもあるらしい。おそらくダッシュは、卵が食べられないようにするためと思われるが…。完璧と思えるホンソメワケベラも、まだ進化する必要がありそうだ。
産卵上昇するペア(座間味)
