大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

オトメベラの生態

ベラ科のオトメベラは全長約18cmになり、千葉県以南の太平洋、インド洋に分布している。サンゴ礁が主な生息場所だが、黒潮の影響が強い温帯域では成魚も多く見られる。幼魚は茶色で、背ビレと尾柄部に黒の斑点がある。

オトメベラの成魚と白枠内は約3cmの幼魚(奄美

 

オトメベラの成魚の体色はオリーブグリーンのタイプと、青いタイプがいる。昔は前者がメス、後者がオスと考えられていたが、オリーブグリーンタイプの中にオスもいることがわかった。ベラ類はメスからオスに性転換することが知られていて、本種も例外ではない。ところが、生まれながらのオスもいてややこしいことに体色はオリーブグリーンだという。青いタイプはメスから性転換したもので、二次オスといい、生まれながらのオスは一次オスというのだが、メスと見分けがつかないため、英語のイニシャルフェイズという言葉が使われている。

青いタイプのオトメベラ。メスから性転換した二次オス(奄美

 

ところで、和名の由来は何なのだろう。調べてもわからない。ある図鑑の解説には「和名に似合わず敏捷で貪欲」とある。まさにそのとおりで、ダイバーにも恐れずに近寄ってくる。オヤビッチャが卵を守っているところにダイバーが撮影のため近寄ると、オヤビッチャは危険を察して卵から離れる。そのスキにオトメベラが卵を食べることがよくある。ダイバーの後をつければ、エサにありつけると、学習してるのだ。

オヤビッチャの卵を食べるオトメベラ(コモド)

 

ベラ類の幼魚はクリーニングをする習性がもともと備わっている。本種の場合は成魚になってもその習性は受け継がれているようで、たまに成魚がクリーニングする姿を見ることができる。

オジサンをクリーニングする若魚(奄美

 

また、大型のナンヨウマンタが来る“クリーニングステーション”には、オトメベラが集まっているケースがある。特に海外ではよく見られる。マンタがやって来て静止すると、ホンソメワケベラなどより多くのオトメベラがクリーニングを行う。

ナンヨウマンタをクリーニングするオトメベラ(ラジャアンパット)

 

本種の繁殖期は5月より10月あたり。二次オスが縄張りを持ち、支配する複数のメスと次々ペア産卵する。奄美や沖縄ではこうしたペア産卵が行われるが、四国の柏島ではグループ産卵を何度も観察した。イニシャルフェイズの個体が30~40尾の集団になり、猛スピードで移動するのだ。その際、尾ビレを広げて黄色を目立たせている。何かの信号になっているようだ。10m移動するとUターンし、また別方向へ移動を繰り返し、そして急上昇して放卵・放精が行われる。こうしたグループ産卵が何度も繰り返される。研究者の話では、グループ産卵の場合、メス1尾に対してオスは10尾くらいとのことなので、少数のメスをたくさんのオスが追尾しているようだ。不思議なことに沖縄ではグループ産卵は見た覚えがない。海域によって繁殖行動も異なるということだろうか。

グループ産卵の瞬間(柏島