大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

祝 奄美大島 ダイビングエリア大賞

マリンダイビングウェブが企画した「マリンダイビング大賞2023」。全国のダイバーがお気に入りの海、気になっている海を投票で決めるランキングで、ベストダイビングエリア国内部門は奄美大島1位になった。沖縄を抑えて…と思ったら、別に沖縄部門があった。それはともかく、30年以上通い続けている者としては喜びに堪えない。そこで奄美の独自的な魅力をお伝えしよう。

ヤッター!とバンザイして喜んでいる奄美のアオウミガメ

 

サンゴ礁や地形などについては、沖縄とさほど変わらないと思うので、やはり魚類だろう。ウロコマツカサは、インドネシアなどではごく普通に見られるが、国内では奄美が最も多いのではないだろうか。

奄美でも特定のポイントにしかいないウロコマツカサ

 

ケラマハナダイの好みの生息場所は、平坦な砂地やガレ場にある根だ。本場(?)の慶良間諸島では減少傾向にある。奄美はそうしたことがなく、密集度がはんぱない。おそらく奄美が生息数世界一だろう。

密集するケラマハナダイ

 

稀種といわれる魚もよく見つかっている。メイキュウサザナミハギやヨスジニセモチノウオ、スミツキソメワケベラ、ヤスジチョウチョウウオなどだ。近くを黒潮が通っているからだが、それ以外にも小笠原方面からも来る海流があることが理由らしい。

内湾でよく見られるヤスジチョウチョウウオ

 

最後は何といってもミステリーサークル&アマミホシゾラフグだろう。とにかく世界で奄美大島でしか見られない特別なものだからだ。ミステリーサークルは産卵床として使われる。したがって、見られるのは繁殖期の47月下旬で、これからが本番だ。

ミステリーサークルと産卵中のアマミホシゾラフグ

 

スジハナダイについて

ハタ科のスジハナダイは全長約14cmになり、伊豆半島以南の西部太平洋に分布している。エラ蓋付近から尾柄部まで赤帯1本入っているのが特徴。やや深い岩礁域に生息している。高知の魚類相の調査、分類学の研究をされていた蒲原稔治博士により、1954年新種記載された。

スジハナダイ(奄美

 

 

スジハナダイを初めて見たのは西伊豆の大瀬崎だった。水深は30mを超えいたと記憶している。その後は伊豆大島で、やはり30mを超える深さだった。大島では体側の赤帯がはっきりしない個体を目にした。おそらくオスで、メスにアピールするときに赤帯を目立たなくする傾向があるようだ。

オスと思われる個体(伊豆大島

 

スジハナダイを温帯域の魚と思っていたが、沖縄・座間味でも外洋の深場に生息していることがわかった。奄美でも外洋のポイントで、水深38mあたりにハレムをつくっていることを発見した。オスは体色を変化させ、盛んにメスに対してアピールしていた。

ナンヨウキサンゴのそばのハレム(奄美

 

スジハナダイは1990年くらいまで日本固有種だったが、94年発刊の図鑑には西部太平洋も加えられた。海外では見たことがないので、国立科学博物館&生命の星・地球博物館共同の魚類写真資料データベースで調べたところ、ほとんどは伊豆で、他は串本、高知、沖縄、そして海外はフィリピンだった。

それはさておき、最初に発見された場所は高知で、柏島周辺と推測できる。そこで柏島で潜った際に、注意して探したところ、それらしきハナダイを水深38m付近で撮影した。ところが肝心の赤帯がないため、フォルダにしまったままだった。その後オスは赤帯を消すことがあるとわかったため、使用することができた。

赤帯が消えたオス(柏島

 

奄美の外洋でハレムを見つけたポイントから数キロ離れたところでも生息が確認された。そこは大きなハレムではなかったものの、1尾のオスが婚姻色になって数尾のメスに求愛していた。赤帯は消え、スジハナダイとは思えないほどだった。これまで出会ったスジハナダイの生息水深は、30m以深というのが共通することだった。

婚姻色のオス(奄美

 

 

プラネットアース新シリーズ

4/21(日)午後9時、NHKスペシャルでプラネットアースⅢが放送された。このシリーズはBBCNHKの共同制作によるもの。第1回は「海の世界」で、これまでのシリーズでもすごいシーンばかりで感動したのを覚えているが、今回はさらに上回った。

プラネットアースⅢのタイトル

 

カリフォルニア湾には春になると、繁殖のためにムンクイトマキエイがたくさん集まって来る。

ムンクイトマキエイ

 

それに導かれるようにシャチもやって来る。もちろん捕食するためだ。その様子を克明に捉えている。

エイの群れに近づくシャチ

 

シャチはチームワークでエイを翻弄し、次々と襲って捕食する。こうした瞬間を何と水中でも撮影している。

エイを襲った瞬間

 

南アフリカではオットセイを狙ってホオジロザメが来る。素早い動きで逃げるオットセイだが、捕食されてしまう個体も。ところが、数匹のオットセイがサメを追い払い始めた。しだいに数を増やしたオットセイにサメは圧倒され、逃げて行った。また、砂に隠れたカスザメに丸飲みされたネコザメが、背ビレのトゲのお陰で生還したシーンや、漂流物にいたカニのオスが、たまたまやって来たアカウミガメの背に乗り移ったら、偶然にもメスのカニと遭遇した、というストーリーの数々。本当にすごい番組だった。

ホオジロザメを追い払うオットセイ

 

補欠選挙を考える

東京都第15区(江東区)の衆議院議員補欠選挙4/28投票される。今回は自民党の法務副大臣だった柿沢未途議員が、昨年の江東区長選挙にて公職選挙法違反で有罪判決を受けて辞任したため。

衆議院柿沢議員のポスター。事件発覚後半年すぎても貼ってあった

 

それに伴い、9名の立候補者がニュースなどで紹介された。その中に見覚えのある顔が。調べたら、汚職事件のニュースでたびたび見た秋元司だった。内閣府副大臣だった秋元は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件で収賄などの罪に問われ、1912月懲役4年の実刑判決、2審も同じ判決だった。秋元被告は一貫して無罪を主張し、上告している。検察のでっち上げ、えん罪だとも言っている。真相はわからないが、これまでの捜査や証拠などでこのような判決が出たのだろうし、当時安倍政権だったので、検察がでっち上げをするなど考えにくい。

立候補者9名の掲示

 

 

まず驚いたのは、実刑判決を受けた人物でも無罪を主張すれば立候補できるというルールだ。公職選挙法の規定で、有罪判決が確定しない限りは立候補できるらしい。こんなことはおかしいし、えん罪が前提になっている。なぜなら、当選しても有罪が確定すれば失職するからだ。そうすれば、また補欠選挙をしなければならない。当然選挙にはお金がかかる。一般市民からすれば、補欠選挙にかかる費用は不祥事を起こした議員が全額支払うべきだと思うが、たぶん税金なのだろう。法律は国会議員がつくったり改正するので、自分がそうなった場合を考慮して、ゆるい法律になっていると想像できる。

立候補を表明する秋元司(朝日新聞デジタル版より)

 

 

1990年 熱き時代

レトロブームのようだ。好景気に沸いたバブル時代の映像がテレビでよく流れている。確かに80年代後半は景気がよかった。バブルという言葉も、はじけて言われたように思う。80年代後半は「マリリンに逢いたい」「グラン・ブルー」「彼女が水着に着替えたら」などダイビング関連の映画がヒットしてブーム(?)になり、一般企業もダイビング事業に参入した。ブリヂストン、日産、NTT、西武、ヤマハ、丸井などで、その後ほとんど撤退したが、ブリヂストンはビーイズムとして独立した。また、大京観光や日新製糖などは70年代前半からダイビング事業を始めている。

1981年、サラリーマンからフリーの水中写真家になったぼくは、80年代後半からようやく食べられるようになった。好きなことを仕事にし、世間に認められ始めたのがうれしかった。

日航機内誌「ウインズ」(903月号)の ”地球絵はがき“で陸上の写真を掲載

 

そこで、最も熱かった1990年を振り返ってみたい。写真家は、写真展を開催し、写真集を出版して一人前と認められる、が定説。そうしたことで、2年前から写真展の準備をして、903月に新宿ニコンサロンで「素顔の魚たち」を開催した。これがきっかけという訳ではないが、この時期いろいろな仕事が舞い込んだ。

初めての写真展「素顔の魚たち」の案内状

 

日航の機内誌「ウィンズ」で “海に潜る” 特集をするので、全面的に協力してほしいとのこと。もちろんOKして海外ロケをした。ほぼ同時期に南西航空の機内誌「Coralway」も “海特集” をしたいというので、写真をたくさん貸した。

日航の機内誌と南西航空の機内誌

 

自身の本を出版するため、やはり1年前から作業を進めていて、5月に出すことができた。「大方洋二のダイビングガイド」(山海堂)で、フォトエッセイだ。この年さらに「海の環境別観賞魚図鑑」「サンゴ礁の華」(共に新星図書出版)を出した。ちなみに、翌年写真集「Marine Blue」(山海堂)を出版した。

「大方洋二のダイビングガイド」とその出版記念パーティー、「海の観賞魚図鑑」

 

また、ニコンサロンで開催した写真展を、調布パルコでも8月に開催が決まった。

さまざまな出版社もダイビング関連の本を出すようになり、それに伴いロケを依頼されることも増えた。伊豆半島をロケした「リゾートダイビング」(双葉社)、沖縄諸島を取材した「ダイビングハンドブック」(双葉社)、「日本縦断ダイビングスポット」(山海堂)など。

各出版社のダイビング関連書籍

 

航空会社も沖縄のパックツアーにダイビングを追加するようになり、日航のパンフレットに水中写真を貸していた。全日空では、ダイビングツアーそのものを会社で行う方針となり、広告代理店を通して撮影の依頼がきた。モデルが万座ビーチホテルで講習を受け、座間味島でファンダイビングをするというストーリーで、1週間のロケ。陸上・半水面・水中の3パターン撮影があるので、かなり大がかりだった。集客が多ければ翌年もパンフレットを作成する予定だったが、1シーズンで終了した。

航空会社のダイビングツアー用パンフレット

 

その他にも雑誌の連載やフォトセミナー、トークショーなども数多く行った。また、SWAL(南西航空)とJALは、ダイバーズアイランドキャンペーンを計画し、沖縄ツアーに「フィッシュウォッチングシール」をプレゼントするサービスを行うことに。それに伴い、魚の写真を貸すことになった。

1990年の年収は、サラリーマン時代のそれをちょっと超した。当時の連絡手段は固定電話、FAX、郵便だけだったが、それでも何とかやってこられてた。忙しいのはありがたいことだが、自分の写真を撮る時間が極端に減少した。やはり何ごともほどほどがいいと感じた。こうして、ぼくの熱き時代はほどよく冷めて行った。

ダイバーズアイランドキャンペーンのフィッシュウォッチングシール

 

第39回水中映像祭を見て

4/14(日)江東区文化センターに於いて、水中映像サークル主催の水中映像祭が開催された。今回上映されたのは、次の6作品。「あの日あの時」松村英典、「バリ島2023」岡野和之、「水中映像サークル会員の撮影機材」合同作品、「冬の大瀬崎」林保男、「SLOW MOTION」横山和男、「水中ナイトビジョン~夜の水中で赤外線撮影してみた!~」梅野朝年。

39回水中映像祭の案内状と上映前の会場

 

今までなかった題材だったのが合同作品で、会員が使用している撮影機材の紹介だ。さまざまな機材が発売されたり、機能も格段に進歩していて驚かされた。ただ、ライトや他の付属品をたくさん付けることによって大きくなり、機動性や魚類への接近度が心配になった。

「冬の大瀬崎」は動画で、丁寧に撮っていると感じた。深海性のソデイカや珍しい幼魚などに心を奪われた。

岸辺に打ち上がっていたが、深みに戻るソデイカ

 

最後の2作品は、新たな試みをしたもので、表現方法に新風を吹き込むかもしれない。

SLOW MOTION」は通常に撮影した動画を編集ソフトで全編スローモーションにした作品。全体的に映像はきれいだったが、スローの効果がわかりにくいものが多いと思った。すごい速さで動くのでわかりにくい生きものの行動を、スローにして見せるという被写体選びが大切だろう。ミノカサゴも出てきたが、ふだんもゆっくりなので、スローにする意味がないと思った。

SLOW MOTION」のタイトル

 

「水中ナイトビジョン…」は動画で、赤外線の特徴や撮影機材の説明も入れ、生物に感じない赤外線ライトを当てて撮影。確かに通常のライトを当ててパワハラまがいの撮影に比べればやさしいことは間違いないが、モノクロになってしまうのが惜しいところ。本当に貴重な生きものを狙えば、赤外線撮影も活きるのではないだろうか。こうした新しい試みに挑戦することは素晴らしいので、今後もチャレンジしてほしい。

最後に感想を求められたが、意見がまとまらないまま話してしまった。それにしても参加者が少なかったので驚いた。こうしたことに関心を持つ人が少ないのはとても残念に思う。Zoomによる参加も可能にしたということだが、遠方ならともかく、近くなら実際にスクリーンで見てほしいものだ。

「水中ナイトビジョン…」のタイトル

 

ヒメウツボの謎

ウツボ科のヒメウツボは全長約25cmになり、八丈島以南の太平洋、インド洋に分布している。1953マーシャル諸島ビキニ環礁で得られた標本を基に新種記載された。日本では90年代に伊豆諸島や沖縄で撮影された写真がダイビング雑誌に載り、英名のゴールデン・モレイと呼ばれていた。

小型種のヒメウツボ柏島

 

1998年に八丈島から得られた標本を基に日本初記録として『伊豆海洋公園通信』で発表。新称ヒメウツボが提唱された。したがって、97年初版の『日本の海水魚』(山と渓谷社)には載っていない。

図鑑に載ったのは最近のヒメウツボ奄美

 

ヒメウツボは生息数が少ないうえ、警戒心も強いために出会える機会はとても少ない。これまで出会った海を振り返ってみると、座間味、奄美柏島3か所だけだ。体色は黄色か茶色だが、黄色が多いようだ。体色はもともと2パターンあるのか、それとも変化できるのかわかっていない。薄い茶色の個体を見たことがあるので、変えられるという可能性もある。

薄い茶色の個体(柏島

 

警戒心が強いと思っていたにもかかわらず、目の前で岩のすき間から出てきたことがある。もちろん個体によって性格は異なるのかもしてないが、このときはビックリした。

全身を出した茶色の個体(座間味)

 

ヒメウツボは決まって単独でいる。同じ海域で別個体も見たことはない。ではどのようにして異性を見つけ、繁殖するのだろうか。実に謎が多いウツボだ。

謎多きヒメウツボ奄美