大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

道標 アカヤギが消えるまで

ダイビングを始めたころ、海の中に赤色の生物が多くいて不思議に思った。イソバナ類、ウミトサカ類、ヤギ類などソフトコーラルといわれる底生生物だ。照明を当てると鮮やかになり、大好きな被写体になった。アカヤギもその一つ。座間味島近くのガヒ島のポイント水深約18mの砂地にあった。

色鮮やかなアカヤギ

 

アカヤギの周辺はヤシャハゼなど珍しい魚類が多いうえ、ユカタハタが住む根があったりするため、潜行するとまずはアカヤギを目指した。気が向けばレンズを向けるが、素通りすることもあった。

砂底にあるアカヤギ

 

アカヤギにはガラスハゼが数尾住んでいるので、フィッシュウォッチング用として撮影したこともあった。

ガラスハゼをウォッチング

 

このポイントは、潮の流れが速くなることもある。ほどよく流れるときにアカヤギは白っぽい触手を出してプランクトンを捕える。そのためふっくらするとともにピンクになる。

触手を出したアカヤギ

 

ワイドレンズのときに風景写真として狙うと、アカヤギはよいアクセントになる。このときは珍しくトゲチョウチョウウオがペアで来てくれた。

アカヤギとトゲチョウチョウウオ

 

人物撮影のとき、選んだポイントの一つがアカヤギのところだった。アカヤギを手前に入れて強調し、人物を奥に配して遠近感を出した。

アカヤギとダイバー

 

最初の撮影から12年が経ったとき、アカヤギは砂に埋もれていた。台風などがあると砂が大量に移動するためだ。そしてその3年後には、まったく見えなくなってしまった。形あるもの、いつかは消える、ということなのだろう。

砂に埋もれたアカヤギ

 

ハマクマノミ 白帯の意味

スズメダイ科のハマクマノミは全長約12cmになり、奄美大島以南の西部太平洋に分布している。体高が高く、赤もしくはオレンジの体に1本の白帯が目の近くにある。クマノミ類はオスからメスに性転換するため、体はメスのほうが大きく、特にハマクマノミではその差が著しい。また、宿主は先端が膨らむタマイタダキイソギンチャク1種のみで、他のクマノミ類と比べると生息条件が厳しい。

標準的なハマクマノミのペア(座間味)

 

ハマクマノミの幼魚は白帯が3本あり、成長に伴って後部の白帯から消失する。

全長約3cmの幼魚(石垣島

 

白帯が23本ある幼魚は、小さなイソギンチャクに単独でいる場合がほとんど。その理由としては、ふ化後に浮遊生活をして、タマイタダキイソギンチャクの誘引物質に導かれて底生生活に入るわけだが、すでにメスとオスの成魚が住んでいる場合は拒否されることが多いため、探し回った結果と考えられている。

全長約4cmの幼魚(石垣島

 

ごく稀に成魚と白帯が2本の幼魚が一緒にいることがある。たまたまオスがいなかったから入れたのだろう。また、日にちもそんなに経っていないに違いない。

成魚と約4cmの幼魚(座間味)

 

成熟したメスと小さな個体が一つのイソギンチャクに住んでいたことがある。白帯は1本で、大きさは約3.5cmだ。果たしてオスとしての役目があるのだろうか? これまでいろいろな研究者によって体長と成熟の度合いが調査されてきた。それによると、自分より大型個体と同居すると白帯は速やかに消失するという。理由は、ペア候補ができたため、成熟速度が増すからとのこと。また、繁殖が可能なサイズは、オスが6cm以上、メスが10.5cm以上との結果が。したがってこの小さい個体は、まだオスとしての機能はないようだ。

成魚と約3.5cmの幼魚(奄美

 

メスになってからの年数が経つにつれ、体色は黒くなり始める。さらに老成すると白帯も少しずつ細くなる傾向がある。なくなってしまったのは見た覚えがないが、この個体が最も細かった。

幼魚の体の大きさと白帯の本数は社会要因によっても影響されるため、その背景も考慮しなければならないようだ。また老成魚の白帯は、長きに渡って種の繁栄に貢献してきた誇りがにじみ出ているような気がする。

白帯が細くなった老成魚(座間味)

 

 

 

尾ビレが縞模様の魚 

ユゴイ科のギンユゴイを初めて見たとき、なんときれいな尾ビレなのだろうと思った。くっきりした縞模様なのだ。波が砕ける表層に群れる習性があるので、同種に対する目印なのだろうと思えた。ギンユゴイの幼魚はタイドプールで見られる。それはともかく、同じような尾ビレの魚はいるのか確かめてみた。すると斑点は比較的多いものの、縞模様はかなり少ないことがわかった。

タイドプールに住む約7cmのギンユゴイ幼魚(八丈島

 

ヒメジ科のヨメヒメジも縞模様の尾ビレということは以前から知っていた。だが、単独でいることも多く、あまり意味が感じられない。同科では本種だけなので、たまたまそうなったということなのかもしれない。

ヨメヒメジ(奄美

 

ハタ科のアオスジハタは、薄茶色の地に青くて細い縦縞模様が入っていることが特徴。この縦縞はそのまま尾ビレに続いている。このように、体側の模様が尾まで続いているのはとても珍しい。

アオスジハタ(プーケット

 

ネズッポ科のヨメゴチは、温帯域の砂底に生息している。通常は保護色になってじっとしているが、外敵に見つかるとヒレを広げて威嚇する。すると尾ビレに縞模様が入っていることがわかる。各ヒレに模様があることで、より迫力が増すようだ。

すべてのヒレを広げて威嚇するヨメゴチ(大瀬崎)

 

ハチ科のハチも通常は砂底にじっとしている。背ビレのトゲに毒があるため、ヒレを広げるのは防御と威嚇の意味がある。この個体の尾ビレは何とか縞模様だが、個体によっては縞模様が崩れている場合も多い。

各ヒレを広げるハチ(大瀬崎)

 

メバル類 分類の難しさ

かつてメバルはフサカサゴ科で、赤色型、黒色型、白色型の変異があるとされていた。ところが、2008年に形質的・遺伝的に異なることがわかり、アカメバルクロメバルシロメバルの3種に分けられ、メバル科として独立した。しかしながら、新種記載の記録を見ると、不思議なことがわかった。

元々3種は別々に新種記載されていて、アカ…とクロ…は1800年代、シロ…は1983年(和名は便宜上)だ。しかも分布は3種共青森から九州までの本州沿岸、アカ…とシロ…は朝鮮半島南部も含まれる。クロ…は日本固有種で、他もほぼ日本固有種にもかかわらず、新種記載したのは外国人学者。まだ日本では魚類研究が行われていなかった証しだが…。こうしたこともあり、日本では昔からメバルは3種に分けたり1種にまとめたりを繰り返してきたという。

メバル類のページ(『小学館の図鑑Z 日本魚類館』より)

 

そこで自分が撮った写真は何メバルなのだろうと調べてみた。決め手は胸ビレの軟条数(軟らかいトゲの数)がそれぞれ異なるので数えればわかるのだが、写真では無理。体色・斑紋から見出すしかないが、どれに該当するのか難しい。なんとなくシロメバルに近いように思う。

砂底に整然と群れるシロメバル(?)佐渡

 

前の写真と同じポイントで、ウミカラマツに群がっていた。どうやらこれもシロメバルに近い気がする。

ウミカラマツに群がるシロメバル(?)佐渡

 

アカメバルは胸ビレが他種より長いと図鑑に書かれていたので、このメバルが該当するのだが、体色が違うように見えるのでちょっとあやしい。

藻場に住むアカメバル(?)(大瀬崎)

 

メバル類の繁殖生態は特殊で、晩秋に交尾をして早春に仔魚を産む。これはオスがメスに求愛しているところ。体色的にはアカメバルに見えるが、胸ビレが短いのでシロメバルかもしれない。

春告魚としてよく知られるメバルだが、体色・斑紋だけで見分けるのは困難だ。長年混乱してきたのもうなずける。

シロメバル(?)の求愛(大瀬崎)

 

ウツボには尾ビレで対応  

ウツボ類は獰猛といわれている。しかし観察してみると、必ずしもそうではないことがわかる。ウツボ類は大抵岩穴などにいる。気に入った穴なら長く住み着くが、多くは1日くらいで替えるようだ。ウツボ類がいると周囲の魚たちはどうするのか気になり、観察したことがある。すると驚くことが起きていた。

ゴマウツボに対して尾ビレで触れるキンギョハナダイ(座間味)

 

尾ビレでウツボ類に触れるのは、出て行ってほしいという意思表示と思われる。奄美ではケラマハナダイのメスが同じ行動をとった。

ゴマウツボに尾ビレで触れるケラマハナダイ(奄美

 

こうした行動が見られるのは、サンゴ礁域だけではない。温帯域の東伊豆・富戸では、ウツボに対してチョウチョウウオの仲間のシラコダイが尾ビレで触れた。

ウツボに尾ビレで触れるシラコダイ(富戸)

 

沖縄北部の伊平屋島で潜ったとき、ニセゴイシウツボを見つけた。ちょうどタテジマキンチャクダイの幼魚が来たので、どうするか見ていた。幼魚はウツボのすぐ前を通り過ぎたが、一旦止まって後ずさりした。そしてなんと尾ビレでウツボの顔に触れたのだ。まるで挨拶するように…。

ニセゴイシウツボに挨拶(?)するタテキン幼魚(伊平屋島

 

奄美のあるポイントで、ミツボシクロスズメダイがゴマウツボに尾ビレをつけた。しばらくすると、今度はケラマハナダイのグループが来て、そのうちの1尾が尾ビレをつけた。ウツボは何の反応も見せなかった。

これまでこのような行動を10数回観察したが、一度もウツボが攻撃することはなかった。ガブリとできる絶好のチャンスにもかかわらず…だ。牙を見せることもないので、獰猛というイメージはみじんも感じられなかった。当初は、出ていけという魚たちの意思表示かと思っていたが、しだいに近所づきあいの挨拶、コミュニケーションに思えてきた。人間が魚の気持ちを理解するには、まだまだ観察が必要のようだ。

ミツボシクロスズメダイと、右はケラマハナダイ(奄美

 

サボテンミドリイシの生態

サンゴ礁でダイビングすると、いちばん目にするサンゴはミドリイシの仲間だ。種類も多く、形状もさまざま。その中でサボテンミドリイシは、枝が太く、水平あるいは斜め上に伸び、ユニークな形になるのが特徴だ。

サボテンミドリイシの中にアジアコショウダイの若魚(奄美

 

サボテンミドリイシは複雑な形をしているので識別しやすい。また、海底から離れて生育するため、隙間に魚類が住む確率も高い。

クロホシイシモチが住みかとして利用(奄美

 

サンゴを主食にするハクセイハギは、ミドリイシ類をよくかじっているが、サボテンミドリイシも好物のようだ。サンゴのダメージを最小限にするため、まばらにかじったり、別のサンゴに移動したりする。

サボテンミドリイシをかじるハクセイハギ(奄美

 

サボテンミドリイシは環境の変化に弱いようで、1998年の世界的な白化現象の際、奄美の黒崎というポイントの水深5m前後のサボテンミドリイシは、ほとんど白化した。高水温が長く続いたため、そのまま死滅し、そしてガレキと化した。

白化したサボテンミドリイシ(1998年11月、奄美

 

30年前、NHK「生きもの地球紀行」の座間味ロケをした。メインはトウアカクマノミの繁殖で、無事撮影を終えると、ディレクターが、サンゴの産卵も入れたいと言い出した。主なサンゴは1か月前に産み終えた状況だ。そこで潜水調査をし、産みそうなサンを見つけ、何とか撮影できた。それがサボテンミドリイシだった。産卵シーンが入ったお陰で、番組に深みが出た。それ以来サボテンミドリイシには、ただならぬ思いが芽生えた。

産卵するサボテンミドリイシ(座間味)



 

クロフチススキベラについて

ベラ科のクロフチススキベラは全長約15cmになり、千葉県以南の西部太平洋に分布している。黒褐色の体に細かな白い点が全体に入り、尾ビレは黄色で、後端は黒。これがメスの姿で、ホクトベラのメスに似ているが、本種は尾ビレ先端が黒い、という違いがある。

クロフチススキベラのメス(柏島

 

不思議なことに、クロフチススキベラは柏島でしか出会っていない。分布が偏っていると思えるが、他の場所では出会った覚えがないのだ。図鑑によると、八丈島から小笠原諸島に多いらしい。

オスは、目の周囲の白点が線状になり、目のうしろに丸い模様が表れる。そして体の白い点がきれいに並んで線のように見える。

クロフチススキベラの若いオス(柏島

 

オスは体の中央に黄色っぽい縦帯を出すことが多い。求愛を意味する婚姻色だ。そして素早く泳ぎ回る。

婚姻色で素早く泳ぐオス(柏島

 

こうした行動はよく見るが、実際にメスにアピールしているところや、産卵は観察していない。また、全長23cmの幼魚は、赤茶の体に薄茶の虫食い模様が全体に入っているらしいが、出会えていない。やはり生息数が少ないに違いない。

婚姻色のオス(柏島