大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

クロハコフグの生態(その2)

クロハコフグの繁殖期は5月中旬~7月。繁殖期以外は行動自体活発ではないため、ほとんどわかっていない。繁殖期になるとオスはサンゴ礁と砂地の境界付近を縄張りにし、16時過ぎから中層に浮かんでパトロールする。同種のオスの侵入を防ぐためと、縄張り内のメスを確認するためだ。その際、体側が明るい水色になる。婚姻色であると同時に、天敵から身を守る保護色と考えられる。

繁殖期に中層をパトロールする、クロハコフグのオス(水納島

 

縄張りはおおよそ30mくらい。水納島での観察では、縄張りに45尾のメスがいて、それぞれに求愛した。繁殖期にはメスも岩陰から出るため、中層を泳いでいてもわかるようだ。メスを見つけると急いで降りて行き、口などで背中を強く押さえつける。オスの強さのアピール&求愛なのだ。メスは逃げるが、しつこく追いかける場合と、すぐに別のメスを探しに行く場合がある。いずれにしても、1個体のメスに対してアピールを繰り返す傾向がある。

メスを押さえつけるオス(奄美

 

026月に奄美で不思議な場面に出会った。オスがメスに求愛していたのだが、メスよりオスが小さいのだ。撮影していたら、別のオスが来て小型のオスは追い払われた。どうやら縄張りを持てないオスが侵入してきたらしい。

小型のオスが大きなメスに求愛(奄美

 

クロハコフグの成魚は沖縄か奄美でしか出会っていない。海外にも分布しているものの、生息数が少ないうえ、警戒心も強いので出会えないのだろうと思っていた。ところが、インドネシアのラジャアンパットで、いきなり求愛しているところを見てしまった。時刻は17時半ごろで、日本と同じ。感動はしたのだが、何とも奇妙な感じだった。

海外で初めて見たクロハコフグの求愛シーン(ラジャアンパット)

 

本種の繁殖行動は水納島4回、その後奄美5回ほど観察している。産卵は日没くらいに行われるが、そのときの状況で若干変わる。産卵準備ができたメスは、しだいに海底から浮かぶようになり、それを見つけたオスが接近し、背中に乗るような体勢で少し泳ぐ。このまま産卵かと思いきや、メスが海底に戻ってしまうことが多い。浮かび上がると襲われる恐怖があるため、ちょっとした気配でもやめてしまうのだ。

産卵のために浮かび上がるオスとメス(奄美

 

オスとメスは重なり合ったままゆっくり上昇し、尾と尾をつけ合う体勢で放卵・放精を行う。その瞬間は3~4秒だろうか。どちらもすぐ海底に戻るが、オスは別のメスに求愛する。そして再び放卵・放精する場合もある。

クロハコフグは、オスとメスで体色・斑紋が異なるうえ、オスがハレムを形成する。こうした特徴は、ベラ類やブダイ類など性転換する種と同じだが、本種の性転換は確認されていない。未だに謎が多く、魅力溢れる魚なのだ。

放卵・放精するクロハコフグ。このときはなぜか早く、1650分だった(奄美