U夫妻が営むダイビングサービス「クロワッサンアイランド」は、かなり自由に潜らせてくれた。2回目に訪れたとき、好きな時間にボートを出すといってくれたので、日没直前にお願いした。今でこそサンセットダイブというジャンルがあるが、当時は夕飯の時間と決まっていたし、海域によっては漁業関連で禁止されていた。港を出てすぐのところでエントリーしたら、10数尾のオジサンが追いかけ合っていた。すぐに繁殖のための求愛だとわかり、タンク1本オジサンの繁殖行動を観察・撮影した。浮上してからすごかったと話すと、後にこの名もなきポイントは「がんばるオジサン」と付けられた。おまけにその名が入ったTシャツまで作ってくれた。
オジサンの求愛と産卵(95年7月)。右が「がんばるオジサン」Tシャツ
日没ダイビングに味を占め、何度も実践した。アブラヤッコ属のナメラヤッコの繁殖パターンを知ったのもこのときだ。クロハコフグも同様で、求愛がとてもユニーク。オスがメスの背中を口で押さえつけるのだが、メスは途中で逃げたりするので、何度も繰り返したり、別のメスに替えたりする。こうしてようやく産卵するのだ。
クロハコフグの求愛(97年7月)
もちろん昼間繁殖する魚もいる。ベラ類やスズメダイ類だが、印象に残っているのはアカテンモチノウオとオビテンスモドキ。どちらも複数にアピールを繰り返し、産卵準備ができたメスが浮かび上がると、オスが寄り添い、並んで上昇して産卵するのだ。
アカテンモチノウオの産卵(97年7月)
水納島で初めて出会い、撮影した魚もいる。コンゴウフグやウスバノドグロベラだ。特に後者は、当時生息地は三宅島だけだったため、自分でも驚いたくらいだ。行動に関する初観察もあった。いつも暗がりにいるキハッソクが、明るいところにいたので変だなと思っていると、ワモンダコが岩穴から姿を現した。キハッソクはタコに興味津々で、凝視している。するとタコに近寄ると体をこすりつけたのだ。どんな意味があるのかは知らないが、この行動は奄美でも観察した。後にブログにアップしたら、沖縄・美ら海水族館の飼育担当者から、おもしろそうなので両者を水槽に入れてみる、という連絡をもらった。
ワモンダコに興味津々のキハッソク(97年7月)
98年7月を最後に水納島に行かなくなったが、その理由は海中公園の取材が増えたり、奄美や海外に行く頻度が高まったからで、決して白化現象でサンゴが壊滅したからではない。
今回、ドローンで撮影した水納島の風景をネットで探していたら、某ツアー会社のサイトに下記の写真「水納島のシュノーケリング」があった。写っているチョウチョウウオはレモンバタフライフィッシュで、ハワイ固有種。水納島にいるわけがない。なぜこの写真が使われたかは不明だが、広告を真に受けてはいけない、ということだろう。
ハワイ固有種のチョウチョウウオがなぜか