大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

改めてミノアンコウ

3月に開催した「海で逢いたい」東京展で、空いたスペースに過去に展示したパネルを飾った、ということは述べた。その中にミノアンコウもあり、かなり反響があったので、改めて説明をしたい。

ミノアンコウ。「海で逢いたい」に飾ったものと同じ写真(838月)

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そもそもミノアンコウとは、19838月に慶良間諸島久場島の水深8mで発見した珍魚のこと。体中にフサフサの皮弁があるため、大きさは20cmくらいに見えるが、本体は10cmくらい。直感的に新種だと思い、撮影後に採集し、宿にあった水槽に入れたが、すぐに死んでしまったたため、海水ごと冷凍し、入れ違いで来られる琉大の吉野先生に渡してもらった。

軍手の手と珍魚。エスカ(疑似餌)が見えたのでアンコウの仲間と推測

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数か月後その標本は、東京大学総合研究資料館の望月先生に送られた。底生魚類が専門だからだ。当時望月先生のもとで、東大海洋研究所の猿渡君もアンコウ類の研究をしていた。新種らしいけどもう1個体標本がないと新種記載できない、と猿渡君から連絡があった。

それとは別に、写真は独り歩きしていた。一番最初は観賞魚雑誌『フィッシュマガジン』(緑書房)の表紙。当時もっともお世話になっていた出版社&雑誌だ。8311月号(10/10発売)の表紙に使ってくれた。たちまち反響があり、『マリンダイビング』(水中造形センター)も8312月号(11/10発売)に掲載。さらに広まった。

『フィッシュマガジン』の表紙と『マリンダイビング』のグラフ

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写真誌『写楽』(小学館)やアウトドア雑誌『BE-PAL』(小学館)などの他に子供向け学習書などが「おばけ魚」「ユウレイ魚」などと形容して紹介してくれた。特に『BE-PAL』は発見のエピソードも載せてくれ、新種だった場合はまた取り上げたいといってくれた。

BE-PAL』は発見のエピソードを掲載(843月号)

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当時は標本が2個体以上必要ということで、新種記載はあきらめていた。しかし、奇跡が起きた! 84年に同資料館を片付けていたところ、見慣れぬ標本を発見。しかも慶良間の標本とそっくり。台帳には1910年~20年ごろ和歌山県から得られた、と記載されているのみ。精査の結果、慶良間の標本と同種とわかり、ついに2個体になったのだ。こんな偶然ってあるのだろうか。

かくして1985年に望月・猿渡両氏によって新種記載の論文が発表され、ヒメアンコウ属の1種、標準和名「ミノアンコウ」と命名された。

新種記載に至るまでの顛末記を取り上げてくれた『BE-PAL865月号

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3月の「海で逢いたい」のとき、誰かがミノアンコウの口の中に寄生虫がいるのでは、と言った。確かに目のようなものが見え、寄生虫に詳しい人がその名前をいっていたが、憶えていない。

今回、改めてミノアンコウを検索してみたら、海の情報を発信するウエブサイト「オーシャナブルーマグ」に水中写真家の堀口和重氏が201811月に大瀬崎のナイトで、ミノアンコウの稚魚を撮影したと紹介されていた。大きさは4cmとのことで、写真を見るとちょっと微妙。皮弁もないうえ、体型もちょっと違う。成長に伴い、ぼくが撮影した個体のようになるとは考えにくい。いずれにしても、好奇の目で探求し続けることは、新たな発見につながるに違いない。

18年に堀口氏が大瀬崎で撮影した写真(オーシャナブルーマグより)

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