大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ミツボシモチノウオの繁殖生態

ベラ科のミツボシモチノウオは全長約20cmになり、屋久島以南の太平洋、インド洋に分布している。新種記載されたのは1853年で、日本で生息が確認されたのは130年後の1983年。沖縄・慶良間諸島で標本が採取された記録がある。だが、精査が進まなかったようだ。80年代中ごろになると、多数のダイバーが撮影するようになった。英名はスヌーティーラスまたはスヌーティーマオリーラスだったので、ダイバーの間では英名で読んでいた。

97年発刊の『日本の海水魚』(山と渓谷社)初版では、モチノウオ属の1種とあり、スヌーティーマオリーラスに酷似するが、標本が得られていないので同定できないと記してあった。慶良間の標本が共有されていなかったのだろう。ちなみに2005年の3版では、和名になっている。

転石帯で行動するミツボシモチノウオ(奄美

 

体色は赤茶色で、体全体に白い斑点があったり暗色の不規則な模様があるものもいるが、個体によって異なったり、変化させることもある。また、体の後部に黒点3個あり、これが和名の由来になった。しかし、黒点が目立たないものや数が異なる個体もいる。サンゴ礁と砂地の境界付近や転石帯で見られる。

体色にバラつきがあるミツボシモチノウオ(座間味)

 

繁殖期は初夏から夏のようで、6月に奄美で、7月に座間味で産卵を観察した。その前に雌雄については、外見にほとんど違いはない。オスのほうがやや大きい。産卵の時間帯は他のベラ類と同じで、奄美では午後2時くらいだった。オスがメスのそばに行ってアピールし、メスがオスを気に入れば並んで上昇し、放卵・放精して素早く海底に戻る。

雌雄並んで上昇(奄美

 

座間味での繁殖行動の時間帯は午後4時半くらいだった。やはりオスがメスに近寄り、気が合えば並んで上昇する。ベラ類にしてはゆっくりなので、撮影は比較的しやすい。

産卵上昇するペア(座間味)

 

放卵・放精の瞬間はタイミングが難しいが、何とか撮影できた。とはいえ、ミツボシモチノウオの生息数はそう多くないようで、その後はあまり出会っていない。生息場所の転石帯などは、競合する魚類が多いため、住み分けを余儀なくされたのかもしれない。

放卵・放精の瞬間(座間味)