大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ミツボシキュウセンの繁殖生態

ベラ科のミツボシキュウセンは、相模湾以南の太平洋、東部インド洋に分布し、全長約18cmに達する。主な生息場所はサンゴ礁域になる。オスは体の前部に模様があり、後部は白っぽくて尾ビレが黄色い。また、尾柄部の上に黒斑がある。

ミツボシキュウセンのオス(座間味)

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メスはオスより小さく、体の色は白っぽくて尾柄部上に黒斑あるのみ。単独か数尾の群れで行動する。本種を含む多くのベラ科は、メスからオスに性転換することが知られている。だが、生まれながらのオスもいて、ややこしいことに大きさや体色はメスと同じなのだ。そこで性転換したオス(上の写真)を二次オスといい、生まれながらのオスは一次オスという。二次オスは縄張りを持ち、複数のメスを支配下におくことができる。

一次オスが混じるメスのグループ(座間味)

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ベラ類やブダイ類は二次オスとメスの「ペア産卵」、そして一次オスが混じったメスの群れの「グループ産卵」の二通りある。本種も同様で、ペア産卵のほうが多いと思っていたが、最初に見たのはグループ産卵だった。25年前の6月下旬のこと。約20尾のメスのグループが海底スレスレを素早く移動しては停止して団子状になり、また移動を繰り返す。このようなグループがあちこちに現れ、せわしない。これらの中に一次オスも混じって

いるのだろうが、同じ姿にもかかわらず、性別がわかるのは本能なのかもしれない。

グループ産卵の直前に団子状になって素早く移動する(座間味)

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グループ産卵は、一つのグループが急上昇して産卵すると、他のグループも刺激を受けて急上昇する。とはいえ、産卵のときは捕食魚から狙われやすいので、注意深く行う。ダイバーも捕食者と思われているようで、近寄るとやめてしまったり、できるだけ離れて産卵する傾向がある。そんなわけで、的が絞れずに振り回されるだけ。近寄って撮影するのは極めて困難。

グループ産卵があちこちで(座間味)

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その後、二次オスとメスのペア産卵を見ることができたが、やはり素早いので撮れなかった。二次オスは体も大きく、数尾のメスを縄張り内に確保できる。そんな二次オスと比べると、一次オスは縄張りも持てず、メスを支配下におくこともできないので、落ちこぼれに思える。だが、巧みな繁殖戦略を備えていて、したたかといえるのではないだろうか。

メスに求愛するオス(奄美

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