大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

春はアケボノ・ハゼ

ようやく本格的な春が来た。この時季よく耳にする「春は、あめぼの」。枕草子の一節で、春は明け方が一番趣があっていい、という意味らしい。ということで、強引にアケボノハゼを取り上げる。

アケボノハゼはハゼ科で、全長約8cmになり、伊豆諸島以南の太平洋、インド洋に分布している。日本での生息水深は3555mとされているが、海外ではもっと浅いところで見られる。

アケボノハゼ(奄美

 

初めてアケボノハゼを見たのは座間味の外洋で、40m近かった。伊江島でも同じくらいのところで撮影した。その後マレーシアのシパダンを訪れたとき、水深10mにいたので驚いた覚えがある。

新種記載されたのは1973年で、日本では1980年ごろ沖縄本島西表島で生息確認された。当時は観賞魚としてフィリピンなどから輸入されていて、英名のパープルファイアゴビーより学名のデコラと呼ぶ人が多かった。

84年発刊の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)で初めて和名が提唱された。解説を書かれたのが皇太子時代の上皇様で、アケボノハゼの命名には美智子様の助言があった、というのはよく知られた話だ。

84年に和名が付いたアケボノハゼ(座間味)

 

高知県柏島の対岸の勤﨑(つとめざき)というポイントは、急に深くなっていて珍しい魚がとても多い。アケボノハゼがいるというので狙ったことがあった。やはり30mを超えていた。

アケボノハゼ(柏島

 

沖縄などでわりあい深いところに生息する魚が、奄美では比較的浅いところで見られる傾向がある。アケボノハゼも同様で、奄美に通い出したころは水深30mで出会ったが、その後は水深20mより浅いところに出現したことがたびたびあった。、

水深18mにいたアケボノハゼ(奄美

 

10年くらい前に柏島でダイビングイベントに参加した際、数日残って雑誌用の撮影した。そのときも勤﨑でアケボノハゼを撮った。珍しく砂地にいて、体はやや小さい。そばにコウライトラギスがいたので何か起こるかとしばらく待ったが、何もなかった。それでも小さな個体を見るのは初めてだったので、うれしい気がした。

コウライトラギスと約5cmのアケボノハゼの若魚(柏島