クロユリハゼ科のアケボノハゼは、静岡県以南の西部太平洋、インド洋に分布している。全長は約7cm。新種記載されたのは1973年。日本では80年ごろ沖縄で生息が確認され、ハゼマニアの間では学名(種小名)の「デコラ」と呼ばれていた。84年発刊の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)でアケボノハゼ(新称)と和名が付いた。解説を書かれたのが当時の皇太子・明仁親王で、命名には美智子さまのご提案があったらしい。分布は沖縄島、西表島、西部太平洋になっていた。
アケボノハゼ(06年、座間味)
日本では35m以深のガレ場に生息している。最初に見たのは座間味にある外洋に面したポイントで、確か40mを越える深さだった。その後は伊江島でも見たが、やはり40mくらいだった。
アケボノハゼとホンソメワケベラ(95年、伊江島)
アケボノハゼの魅力は、なんといってもヒレを広げたときの美しさだ。96年ごろ奄美で開催したフォトセミナーで、参加者が講評してほしいとアケボノハゼのプリントを持ってきた。ヒレは閉じていた。美しい魚を美しくなく撮るのは魚に対して失礼、という意味のことを言った。ちょっときつい言葉だが、「魚に対して失礼」は我ながら気に入り、肝に銘じて撮影を続けた。
アケボノハゼ(95年、奄美)
ところが、タイのスミラン諸島クルーズで失礼な写真を撮ってしまった。アケボノハゼのペアを初めて見たので、ヒレが閉じていたにもかかわらず、シャッターを切ったのだ。セミナー用の「よくない例」にすればいいと。そして「よい例」を待ったが、ヒレを広げることなく巣穴に入ってしまった。その後別のポイントでちゃんと撮ったが、ペアではなかった。「よくない例」の画像は、自らの戒めに消去しないでいる。
美しさ皆無の「よくない例」(09年、タイ・スミラン諸島)
アケボノハゼは、日本初記録以来しばらくハゼ科だった。2000年くらいにオオメワラスボ科に変わり、2004年発刊の『決定版 日本のハゼ』(平凡社)では現在のクロユリハゼ科になった。
アケボノハゼに限らず、どの魚もヒレを広げると魅力が増すので、撮影者のこだわりがわかる部分だ。「魚に失礼な」写真を見つけるのも楽しい。
アケボノハゼ(09年、柏島)