10月15日、大量の軽石が奄美大島の海岸に漂着した、とのニュースがあった。小笠原諸島の南硫黄島近くの海底火山・福徳岡ノ場で8月13日の噴火によって噴出した大量の軽石が、2か月かけて奄美群島や沖縄本島に流れ着いたのだ。このことにより、今まで不思議に思っていたことが、納得できた。
軽石が流れ着いた奄美市名瀬小湊海岸(NHK NEWS WEBより)
というのは、これまで奄美で何度も小笠原ゆかりの魚を見つけたからだ。奄美は黒潮が近くを流れているため、魚類などは沖縄やフィリピン、インドネシアの影響を強く受ける。一方小笠原は、マリアナ諸島やマーシャル諸島、ポリネシアなど中央太平洋の影響が強い。それにもかかわらず、日本では小笠原だけしか確認されていない魚が奄美に出現することがあるので、不思議に思っていた。例えばヨスジニセモチノウオは、97年2月に小笠原で得られた標本を基に日本初記録になったが、すでに奄美でも生息していた。
日本では小笠原でしか記録がないヨスジニセモチノウオ(96年11月)
メイキュウサザナミハギも小笠原から得られた標本を基に日本初記録になった。この写真は幼魚で、成魚は小笠原と西表で確認されている。
メイキュウサザナミハギの幼魚(97年11月)
ヨコシマニセモチノウオはマーシャル諸島から得られた標本を基に新種記載された。日本では小笠原の標本で00年4月に日本初記録種となり、和名が付けられた。その後久米島や宮古島、西表島でも生息が確認されている。奄美では95年に外洋のポイントに幼魚が出現し、4年後同ポイントで成魚が出現した。もしかしたら同一個体かもしれない。
ヨコシマニセモチノウオの幼魚(左、95年6月)と成魚(99年11月)
ベニオチョウチョウウオは、マリアナ諸島やタヒチなど中央太平洋に広く分布している。日本では小笠原に比較的多いが、沖縄では見られない。奄美では90年代中ごろから2個体が居ついていた。この現象も不思議だったが、いつしか(10数年前)姿を消してしまった。
ベニオチョウチョウウオ(97年11月)
スミツキソメワケベラも日本での生息は小笠原のみだったが、92年に座間味島で発見。その5年後に奄美でも見つけた。奄美では少し離れたところにもう1個体いた。たぶん現在も日本での生息確認はこの3か所だと思う。
これまで小笠原ゆかりの魚が奄美に出現しても、偶発的な出来事と捉えていた。しかし、不思議でもなんでもないと、長旅を終えた軽石が教えてくれた。
スミツキソメワケベラ(97年11月)