大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

海のオーバーツーリズム 

オーバーツーリズムが社会問題になっている。特定の観光地に訪問客が集中し、地域住民の生活や自然環境に負の影響をもたらすうえ、観光客の満足度を低下させる状況のことで、経済効果との兼ね合いもあるので、対策は難しい。

海にも同様なことが起きた。ボルネオ島の北東沖、マレーシア領シパダン島だ。1983年にボルネオダイバーズがこの無人島にダイビングリゾートをつくった。ダイビング事業は外貨獲得に有効なため、国の後押しもあったのだろう。シパダンの経緯については『AsianDiver2018Vol.150に載っているので、参考にしながら進めたい。

AsianDiver』のシパダンに関する記事。右上の女性はクストーの孫

 

シパダンは大部分が礁池で、北側の一部が直接深みになる。そこに施設をつくったことでビーチエントリーが容易で、ボートを利用すれば周囲のポイントにも行け、滞在すれば効率よく潜れる。しかも魚類や生物も豊富なため、たちまち大人気になり、島内にリゾートが増え、日本からもツアーが出るようになった。

シパダンダイブセンターのポイントマップ。下は沖から見たシパダン(94年)

 

ぼくが最初に行ったのは1994年で、リゾートが10数軒に増え、日本人ガイドが常駐するところもあった。海は評判どおりどのポイントも素晴らしく、145本難なく潜れ、まさに“ダイバー天国”だと実感した。ウミガメが多くて逃げないので驚いた覚えがある。このときは6日間滞在し、21本潜った。 

日本人ガイド常駐のシパダンダイブセンター

 

魚ではフチドリハナダイやブルー・ヘッド タイルフィッシュ、また、アカククリがミズガメカイメンを食べている珍しい場面も見た。カイメンの表面は硬いので、人為的に壊されたのだろう。

この12年後に近くのマブール島やカパライ島にもリゾートができ、ボートでシパダンまで遠征もした。90年代終りごろにはシパダンで潜るダイバーは、1300400名ほどになった。当然自然環境が破壊されたり、魚類が移動せざるを得ない状況になる。対策の一つとして、他のリゾートからのダイバー数を制限するようになった。1997年にマブールを取材した際、何度かシパダンで潜ったが、魚群が少なくなった感じだった。

アオウミガメ、フチドリハナダイ、ブルー・ヘッド タイルフィッシュ、アカククリ

 

それでも改善が図れないため、2002年にダイビング業者と国の環境対策チーム(?)が協議し、島での宿泊を0412月で禁止することとした。したがって、シパダンで潜るには近くのリゾートからボートで行くしかないが、自然保護の観点から人数制限、氏名登録、入島料を課す規定にした。こうすることによって、ダイバーはかなり減少し、自然環境はだいぶ戻ったという。

03年にもマブールを取材したが、シパダンに滞在できなくなると知ったので、最後の2日間はシパダン泊を希望し、実現した。滞在者しかできない早朝ダイビングを行い、岩穴に眠るカンムリブダイが起きて出かける瞬間が撮りたかったのだ。

早朝ダイビングの朝日とカンムリブダイ

 

AsianDiver』には、ボルネオダイバーズの責任者がシパダンの自然環境の経緯について、当初(1982)を100とした場合、2004年は30まで落ち、2018年は70まで回復したと見解を述べている。やはりオーバーツーリズムは良くないことが判明した。通常はビジネスを優先しがちだが、自然環境を守る方向に舵を切ったことは称賛に値する。日本も参考にするべきだろう。

アデヤッコのペア(200312月)