クレナイニセスズメという美しい魚がいる。メギス科メギス亜科クレナイニセスズメ属で、全長約6cmほど。サンゴ礁域の岩穴や岩陰などに生息し、動物プランクトンをエサにしている。肉眼で見ると青紫だが、ライトを当てると赤紫に輝く。日本では奄美や沖縄で見られる。新種記載されたのは1974年で、翌年には日本でも生息確認されて和名が付いた。パラオやマーシャル諸島、フィジーなどにも分布する。ニセスズメ類は英語でドッティーバックなので、本種はパープルドッティーバックという。本属は70種以上いるが、観賞魚として、また被写体として人気が高い4種を取り上げてみよう。
クレナイニセスズメ(座間味)
本属で最初に新種記載されたのがロイヤルドッティーバックで、1973年のこと。体の前半分が赤紫、そして後半が黄色。このため、バイカラードッティーバックあるいはツートーンドッティーバックなどと呼ばれることがある。インドネシアやパプアニューギニア、ニューカレドニアなどに分布している。
ロイヤルドッティーバック(バリ)
背中から顔にかけてが赤紫で、他は黄色なのがダイアデムドッティーバックだが、カンムリニセスズメと呼ばれることもある。日本に分布していないので標準和名ではなく俗名だ。おそらく観賞魚関連の方が呼びやすいように付けたのではないだろうか。実はこの種は2タイプある。1つは背中から顔にかかる赤紫が、口の上で終わるタイプだ。
赤紫が口の上で終わるAタイプ(左がデラワン島、右がシパダン島)
もう1つがこれで、赤紫が下アゴまで伸びているタイプ。ダイアデムドッティーバックは4個体ともボルネオ島の東側に位置する島(マレーシア領・ポンポン島、マブール島、シパダン島、インドネシア領・デラワン島)で撮影した。わりあい狭い範囲、特にマブールとシパダンは数キロしか離れてないにもかかわらず、異なるタイプが生じるのは不思議でしかたがない。
赤紫が下アゴまで続くBタイプ(左がポンポン島、右がマブール島)
色彩がダイアデムドッティーバックと反対なのが、ゴールドプラウドドッティーバックだ。腹部はクリーム色になる。分布は狭く、ニューギニア島付近からのみしか観察されていない。
クレナイニセスズメ属も長い年月をかけて種が増えたのだと思うが、どのような経緯で体色が変化し、分化してきたのか興味は尽きない。
ダイアデムドッティーバック(ニューギニア島西北部のマノクワリ)