大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

アヤコショウダイの謎

アヤコショウダイは、イサキ科コショウダイ亜科コショウダイ属で、全長約60cmに達する。屋久島以南~琉球列島、西部太平洋、アンダマン海に分布している。同属の特徴は、幼魚と成魚の体色・斑紋が著しく異なること。成魚は背面に斜めの縞模様があること、胸ビレ基部が赤いことなどで識別できる。

アヤコショウダイの成魚。他種と混泳することも(ラジャアンパット)

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不思議なのは、日本ではほとんど見られないこと。図鑑や写真集に載っているものはすべて海外で撮影されている。生命の星・地球博物館の魚類写真資料データベースで調べたら八重山諸島宮古島慶良間諸島で撮影された写真が出てきた。忘れていたが、慶良間のは自分のだった。いずれにしても、ダイバーの目につきにくいのは確か。釣り、追い込み網、定置網などで漁獲があるので、生息しているのは間違いない。見られないのは漁業が理由だろうか。

居場所を巡って競い合うことも(パプアニューギニア

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先述したように、幼魚は成魚とはまったく違う。特に本種とヒレグロコショウダイ、イエローリボンスイートリップスの3種は酷似しているため、混乱していた。そこで90年ごろ学者が成長過程の写真や標本を基に斑紋変化の概要を明らかにし、分類学上の整理を行って『伊豆海洋公園通信』(91年2月号)に掲載。そのお陰で見分けられるようになった。とはいえ、前出3種の46cmのころはよく似ているので、やはり難しい。

最新の図鑑『日本魚類館』(小学館)の本種幼魚のページ

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コモドでは幼魚をたくさん見てきたが、どの種に該当するのかは困難だった。体を揺らして泳いだり、ヒレを畳んだりするため、標本写真とは比べにくいからだ。しかもコモドはイエローリボンスイートリップスが多いので、この幼魚とばかりに思っていた。今回改めて見てみると、どうやらこの写真の個体は本種の幼魚に間違いないことがわかった。もう少し成長すると、縞の数が増える。

全長約6cmのアヤコショウダイの幼魚(コモド)

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これまでの体験や外国人の写真集などからすると、アヤコショウダイが多いところは西部太平洋の熱帯海域ということになる。オーストラリアでは本種だけの大群の写真もあったが、コモドやパプアニューギニアでは大抵他種と混泳していた。沖縄の漁業は諸事情により、次第に縮小されると推測されるので、そのうち本種の群れが見られるようになるかもしれない。

ホンソメワケベラにクリーニングされる(グレートバリアリーフ

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