チョウチョウウオ科のチョウチョウウオは全長約20cmになり、津軽半島~琉球列島、朝鮮半島南岸、台湾、南シナ海に分布している。低めの水温にも適応し、伊豆半島付近でも成魚が普通に見られる。体色はやや地味で、黄色味がかった茶色。そして顔には黒と白の横帯が入っている。チョウチョウウオ類は観賞魚としても人気が高いが、本種は希少価値が低いためか “並チョウ”と呼ばれている。

好みのエサは動物性のもので、底生小動物やヤギ類のポリプなどを食べる。伊豆でイソギンチャクをつついたのを見たこともある。魚卵はもちろん大好物で、オヤビッチャの卵をよく狙う。

また、沖縄・座間味ではペアでリュウキュウイソバナのところによく現れる。そして時折、ポリプをつつく姿を見ることがある。

夜は他の魚類と同様に、岩のすき間などに寄り添って眠る。その際、体色を変化させるのも他種と同じだ。
夜は体色を変えて眠る(大瀬崎)

座間味ではペアでいるところしか見ていないが、他の海域では単独から小さな群れの場合が多い。また、串本などでは大群になることもあるらしい。繁殖と関係がありそうだが、実は本種の繁殖生態はわかっていない。

同科のシラコダイやゲンロクダイも温帯に適応し、水槽では産卵が確認されている。ところが本種は水槽でも産卵しないため、東海大学海洋科学博物館は伊豆産、串本産、坊津産の個体を調べた。いずれも生殖腺が未成熟だったようで、繁殖可能は西表産のものだけとか。沖縄本島や奄美諸島は調査していないが、繁殖は可能だろう。受精卵から着底可能に成長するまで40~50日と想定される。一方、海流が奄美から伊豆に達するのに、実験では30~60日だそうだ。着底できる確率と伊豆での成魚の生息数を照らし合わせると、もっと近い繁殖域があることが推測される。いったい伊豆の“ナミチョウ”はどこで生まれたのだろうか。この謎を早く知りたいものだ。
