大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

クロスズメダイ 未知の生態

スズメダイ科のクロスズメダイは、奄美大島以南の西部太平洋、インド洋に分布する。全長約17cmになり、和名のとおり体色は黒い。正確にいうと、青味ががかった黒だ。やや内湾性で比較的浅いところに生息し、ウミキノコ類のソフトコーラルの近くにいることが多い。

クロスズメダイの成魚(座間味)

 

クロスズメダイの幼魚は、体色・斑紋が成魚とまったく異なる。そのため1970年初めころまでは別種と思われ、キンセンスズメダイと呼ばれていた。

キンセンスズメダイと呼ばれていた幼魚(座間味)

 

1973年に串本海中公園センター水族館で飼育中だったキンセンスズメダイが徐々に体色が黒く変わったため、クロスズメダイとわかった。また同時期に魚類学者も潜水調査するようになり、体色変化中の本種を確認している。

体色が黒く変わり始めた全長約7cmの幼魚(座間味)

 

本種は単独で生息し、大きく移動することはない。そのため縄張り意識は強いほうになる。あるとき縄張りにオニヒトデが侵入した。すると果敢に攻撃し、ついに撃退させた。

侵入するオニヒトデのトゲをくわえるクロスズメダイGBR

 

本種は雑食性のようだが、実際にエサを食べている姿はあまり見られない。ところが、奄美で意外な行動を観察した。ハナビラクマノミが住むセンジュイソギンチャクのそばに来たのだ。触手には刺胞毒があるので、普通の魚は近づかない。

センジュイソギンチャクに近寄る(奄美

 

うねりで触手が揺れ、体に触れずにイソギンチャクの口が現れるのを見計らい、接近して口をつついた。当初は排泄物が目的かと思ったが、そうではない。口のあたりをかじっているのだ。ハナビラクマノミは追い払うにも相手が大きすぎ、あきらめているようだ。同じ行動を、奄美の外洋に近いポイントでのみ4回観察している。おそらくこの海域に生息するクロスズメダイにだけ特化した行動なのだろう。

イソギンチャクの口をかじるクロスズメダイ奄美