ヨウジウオ科のオイランヨウジは琉球列島以南の西部太平洋に分布し、全長約16cmになる。白地に赤褐色の横縞があるのが特徴。岩のくぼみなどにペアでいることが多い。新種記載は1853年で、日本で確認されたのはなんと120年後の1973年。八重山の竹富島および沖縄本島で各1個体採集されたと記されている。
オイランヨウジのペア(座間味)
実は、オイランヨウジにそっくりな別種がいる。カスミオイランヨウジだ。外見での違いは尾ビレの模様だけ。2004年にオーストラリアのアレン博士と写真家のクーター氏連名で新種記載した。日本では尾ビレが異なる個体の存在は知られていたが、変異と思われていたようだ。奄美から得られた標本を基に2008年日本初記録種となり、和名が付けられた。うかつにも、このことは最近まで知らなかった。所有の図鑑でカスミオイランヨウジが載っているのは2019年発刊の『奄美群島の魚類図鑑』(南日本新聞開発センター)のみで、なぜか見落としていた。
『奄美群島の魚類図鑑』のカスミオイランヨウジのページ
オイランヨウジは奄美が北限のため生息数が少ないようで、出会ったことがない。カスミオイランヨウジもない。国立科学博物館&神奈川県立生命の星・地球博物館共同の魚類写真資料データベースを見ると、カスミオイランヨウジは相模湾や駿河湾、和歌山などでも撮影されているので、温帯域にも多く生息しているようだ。これまでの写真を調べたら、マブールで撮った個体がカスミオイランヨウジだった。
カスミオイランヨウジ。尾ビレ中央に白斑がないのが特徴(マブール)
オイランヨウジの尾ビレは特徴的だとは思っていたが、それほど気にはしていなかった。ところが、ラジャアンパットでやたら尾ビレを主張する個体に出会った。
尾ビレを見せびらかすオイランヨウジ(ラジャアンパット)
あまりにもきれいだったので、アップで数カット撮影した。典型的なオイランヨウジの尾ビレで、尾ビレ中央に白斑がある。
尾ビレのアップで、右は裏側(ラジャアンパット)
オイランヨウジはオスが腹部に卵を付けて保護する。卵は比較的大きいので、よく目立つ。そうしたこともあるため、岩穴などに住んでいるのだろう。また、卵を付けたオスはよく回転する。理由は定かでないが、回転途中で撮ると、卵が背中に付いているように見えてしまう。
卵を付けた腹部を上に向けているオイランヨウジのオス(座間味)