ハタ科のケラマハナダイは全長約10cmで、相模湾以南の太平洋、インド洋に分布している。1970年代中ごろ、伊豆海洋公園社長で図鑑を制作している益田一氏が、慶良間諸島・安室島のウフタマというポイントで、見慣れぬハナダイを見つけて撮影した。その場所は砂地にある根で、水深は約14m。ウフタマは広範囲なので、その根をいつしか「益田岩」と呼ぶようになった。謎のハナダイの写真を見て魅了され、自分でも撮りたくなって行ってみると、アカネハナゴイと一緒にいた。
益田岩で撮った謎のハナダイ。右の2尾はアカネハナゴイ(座間味、1980年)
益田氏はそのハナダイは新種と判断し、1982年6月、魚類学者の片山博士と当時海洋公園スタッフの小野氏(その後座間味に移住)の3名で採集しに座間味へ。たまたま滞在していたので、採集の様子をモノクロームで撮らせていただいた。
網でハナダイを採集。右が益田氏で左が小野氏(座間味、1982年)
そして1983年に片山、益田両氏連名で新種記載し、和名をケラマハナダイと命名した。もちろん慶良間諸島の〝ケラマ〟だ。ところが、数か月後だったと思うが、海外の学者から既存種のピンクバスレットだという指摘を受け、詳しく調べた結果、指摘どおりと判断。新種は幻と消えたが、日本初記録として和名はそのまま使用されることとなった。ということで、既存種は1856年に新種記載されている。あまりにも古いので、どこで発見されたのかは不明だ。
ケラマハナダイ。上がオスで下がメス(座間味)
その後、オーストラリアやインド洋のモルディブ、ニューカレドニアなどで本種を観察・撮影していて、確かに分布は広いと実感したのだった。
グレートバリアリーフで出会ったケラマハナダイ(1997年)
日本での分布の北限は、図鑑に初めて掲載されたころは高知県あたりだったが、その後伊豆大島や伊豆半島の富戸でも若魚や幼魚が確認されている。現在は水温も高くなっているため、さらに北上していると考えられる。
ケラマハナダイの幼魚(富戸、1998年)