大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ハワイトラギスの生息場所

トラギス科のハワイトラギスは相模湾以南の太平洋、インド洋に分布している。全長約12cmになり、特徴は他のトラギス類と比べて模様に赤味があること、ホバリングする確率が高いことなど。新種記載は1900年だが、日本の図鑑に登場したのは1984年のこと。その当時、故益田一氏と座間味で同じボートで潜ったとき、この沖にハワイトラギスがいると聞いたが、見つけられなかった。その後、奄美で見つけて撮影できた。

ハワイトラギス。大きいほうがオス(奄美

 

ハワイトラギスの生息場所は20m以深の砂礫底。つまり、砂地に小石やサンゴのかけらが敷き詰められた海底のこと。座間味で見つけられなかったのは、どういう場所にいるか見極められなかったからだ。その後座間味では、水深30mのお花畑というポイントで見つけて撮影した。

岩の上で休むハワイトラギス(座間味)

 

奄美では黒崎というポイントでしか確認していない。水深が約24mで、やはり砂礫底だ。潮流が速くなることが多く、いつでも潜れるポイントではないが、潜れば必ず本種と出会えるので、最適な生息場所なのだろう。ちなみに、座間味のお花畑も潮が速い。

好みの場所でホバリングするハワイトラギス(奄美

 

海外ではあまり見た覚えがない。画像を調べたら、ニューギニア島インドネシア領でクルーズをしたとき、撮影していた。やはり砂礫底だった。

砂礫底を好むハワイトラギス(インドネシア

 

先述したように、本種の生息環境は深くて潮の流れが速いところだ。したがって、潜れるチャンスが少ないうえ、潜ったとしても長い時間観察できない。求愛のような行動を何度も目撃しているが、結局浮上の時間が来てしまう。新しい潜水器材を駆使すれば、解明できるかもしれない。

手前のメスに求愛(?)するオス(奄美

 

八重根のアーチ

3/20(水)写真展『海で逢いたい』が無事終了した。知り合いの来場者には10数年ぶりという人も複数いた。写真展をフェースブックなどのSNSで知ったというので、イマドキだなと思い、こうした催しはやはり大切なことだと感じた。

3/16(土)は会場内でのレセプション、そして夜の懇親会での「辛口水中写真家・大方洋二の一刀両断」も復活した。一刀両断とは、展示作から、ここをこうしたらもっと良くなる、というのを10数点選び、講評するイベント。今回は佐々野 浩さんの「八重根のアーチ」も選んだので、取り上げてみたい。

右の岩の割合が多く、肝心のアーチ部分が少ないため、画面全体を左下にずらすとアーチの形がよくわかるのではないかと話した。

佐々野 浩氏の「八重根のアーチ」

 

八重根のアーチは、八丈島の旧八重根港沖にあるダイビンングポイントで、何度か潜っている。アーチは大きくてダイナミックなので、超ワイドレンズでなければ表現するのは困難。また、佐々野氏は、ハナダイや壁のカラフルな生物も伝えたかったらしい。確かにアーチの天井部分はイボヤギやイソバナなどでカラフルだが、両方際立たせるのは相当な技術が求められる。

天井部分は鮮やかな生物が付着している

 

八重根のアーチ自体を被写体にしたのは0710月のときだけで、大きすぎる被写体なので、いろいろアングルを決めるのに苦労した覚えがある。アーチの大きさがわかるようにダイバーを配置し、自然光で撮ったりもした。

自然光で撮ったアーチとダイバー

 

アーチの壁面に付いているイソバナを手前に入れて撮ってみた。改めて見ると、右下のトンネル部分が少ないので、ダイナミックさが足りないと思う。

イソバナを前景にしたアーチ

 

アーチの下にカイメンがあり、中にミギマキが入っていた。それを手前に入れ、背景にアーチの足の部分を入れて撮った。これがこのレンズの限界なのでしかたがないが、さらにアーチの形がわかれば、もっとおもしろい写真になったかもしれない。時を経て、カメラアングルや構図のことをあれこれ考えるのも楽しいものだ。

カイメンの中のミギマキと背景のアーチ

 

さわやか自然百景

3/17(日)NHK『さわやか自然百景』は、鹿児島県の沖永良部島だった。かなり海中シーンが多かったので、誰が撮影したのか楽しみに見ていた。

さわやか自然百景のタイトル

 

沖永良部島は地形がダイナミックな部分もあり、アーチが見られるのも特徴。

ダイナミックな地形

 

魚類ではハマクマノミ、セジロクマノミ、アカヒメジ、ヨスジフエダイギンガメアジなどが登場した。

セジロクマノミギンガメアジ

 

また、冬季はザトウクジラが来て子育てすることも知られている。今回は生まれて間もない子クジラも映っていた。ドローンでの撮影とともに、水中も撮っているので、すごいなと思った。

ザトウクジラの親子

 

クレジットを見たら、制作協力は「水中映像工房・凪」とあった。昨年NHKを早期退職して制作プロダクションをつくったKさんの会社で、よく知っているカメラマンだ。さすがという気がした。“働き方改革”で外注が増えるはずなので、今後もNHKの自然番組で見らえることだろう。

ラストシーンのクレジット

 

 

 

第27回「海で逢いたい」東京展開催!

標記写真展が315日(金)より始まった。今回は巡回展の神戸展は1か月前に開催。こんなに間が空くことはなかったため、やや戸惑った感じがした。

海で逢いたい東京展の案内状

 

それでも初日の10時前から関係者や有志が集まり、設営を行った。展示作は神戸展より10数点増え、63点。設営についてはみんなベテランになったので、開催時刻の1時間前には終了した。

初日にもかかわらず、知り合いが数名来てくれた。例年より上々のスタートだ。明日は久しぶりにレセプションもあるので、みんなも楽しみに違いない。

設営前と設営を終えた会場

 

前述のように、神戸展と東京展が1か月も間隔があったことで、出品作の提出期限もそれなりに遅くなった。そのため、プリントチェックも神戸展と東京展で新たに追加する分を別々に行うかたちになった。

神戸展用のプリントチェック(日本カメラ博物館にて)

 

今回の出品作は、組み写真にした。コロナの影響でここ数年出品数が減少しているので、対策を考えようとスタッフと話した際、いくつかの案が出た中で、組み写真もその一つだった。複数の写真で一つの被写体をよりわかりやすく伝える技法として「組み写真」は有効で、発想を変えることによってストック写真からでも出品できるメリットがある。そうした提案のつもりで今回の作品を選んだ。

今回の出品作で、タイトルは「ナニ見てんのよ!」

 

春季慰霊大法要

310日、東京都立横網町公園内の東京都慰霊堂に於いて、春季慰霊大法要が行われた。79年前の東京大空襲310日ということで、毎年この日に行われている。この慰霊堂には、関東大震災192391日)と東京空襲で犠牲になった163000体の遺骨が安置されている。午前10時から秋篠宮ご夫妻、小池東京都知事らが参列され、法要が行われたとニュースで報じていた。

NHKのお昼のニュースより

 

午後、焼香をしに行った…。終戦3年前に墨田区で生まれ、東京大空襲で生家は焼失したが、疎開していたお陰で助かった。国からの情報を信じて東京に居続けていたら、ここに眠っていたはず。両親の決断に感謝しかない。

現在、東京都慰霊堂から徒歩数分のところに住んでいる。これも何かの因縁だろう。

慰霊堂の内部

 

慰霊堂内には、関東大震災のときの油絵と東京大空襲のときの写真が飾られている。写真は報道カメラマンだった石川光陽氏のもの。浅草、市谷、八王子など各地の写真があるが、混乱状況の中、苦労しながら取材した様子が伝わってくる。

3/10に撮影された焦土と化した浅草(慰霊堂内に展示の写真)

 

焼香を終え、買い物しての帰りに再び慰霊堂の前を通ると、右翼の車が5台くらい入口に停車していた。靖国神社ならわかるが…どういうことだろう。

入口付近に停まっている右翼の車両

 

フタホシタカノハハゼの体色

ハゼ科のフタホシタカノハハゼは、奄美大島以南の西部太平洋、インド洋に分布し、内湾の砂泥底にテッポウエビ類と共生している。全長約8cmで、焦げ茶色の不規則な斑紋が全体に広がり、頬に細長くて黒い斑紋二つあるのが和名の由来。日本に生息が確認されたのは1990年ごろで、当初は未記載種扱いだった。約30年後、既存種(1932年に新種記載)と同じと判明した、と2021年に出版された『新版 日本のハゼ』(平凡社)に記されている。

基本の体色(?)のフタホシタカノハハゼ(タイ・タオ島

 

焦げ茶色の斑紋があるタイプが基本のようなのだが、全身が黄色いタイプ(黄化個体)もけっこう多い。顔の周辺に水色の斑点はそのままのため、ギンガハゼと混同しやすい。しかも黄色タイプは頬の黒い斑紋が消えている場合が多いので、なおさら見分けにくい。識別点は、本種の腹ビレに縞模様があるがギンガハゼにはない。また、第一背ビレが本種は角ばっているのに対し、ギンガハゼは丸みがある。

黄色いタイプのフタホシタカノハハゼ(タイ・タオ島

 

これまで焦げ茶色の斑紋の基本の個体を見たのは23度で、大部分は黄色いタイプ。黄化個体で知られるヘラヤガラ、マルクチヒメジ、ギンガハゼなどは半々くらいの割合だが、本種は8割くらいが黄色タイプだ。一体どうしてなのだろう。

黄色いタイプのフタホシタカノハハゼ(奄美

 

東部インド洋のスミラン諸島では、中間タイプの個体がいた。これを見ると、同一個体が体色を自在に変えられる可能性がある。とすると、黄色でいたほうがメリットがあるに違いない。

中間の体色をしたフタホシタカノハハゼ(タイ・スミラン諸島)

 

本種が巣穴から姿を出している場合、すべて単独だった。おそらく繁殖期になるとペアになって産卵し、すぐに離れるということだろう。そうすると、黄色はパートナーを引きつける意味があるのかもしれない。今後の研究を待ちたい。

テッポウエビと暮らすフタホシタカノハハゼ(ラジャアンパット)

 

 

映画『あの日のオルガン』

3/4(月)墨田区曳舟文化センターに於いて映画「あの日のオルガン」の上映会が行われた。この映画は、太平洋戦争末期、東京から疎開先の埼玉県で53人の子供たちとともに「疎開保育園」で奮闘する保母たちの姿を描いたもので、実話を基に制作された。

上映会が開かれた曳舟文化センターの上映前の様子

 

疎開したのは品川区の戸越保育園と墨田区の愛育燐保館の二つ。映画は2019年に公開され、墨田区はモデルになった保育園が存在した関係で、墨田区上映会実行委員会を立ち上げ、墨田区共催で今回の上映会が実施された。

タイトル

 

ストーリーは、戸田恵梨香演じる保母主任・板倉楓と、大原櫻子演じる保母・野々宮光枝を中心に、疎開先でのさまざまな難題に立ち向かう。子供たちの前でオルガンを奏でて共に歌う光枝の姿に戦争を忘れる一瞬があったり、東京大空襲で子供たちの家族や両親が亡くなったりする。そうした現状に、疎開は正しかったのか、と楓は自問自答する。

あの日のオルガンのチラシ

 

やがて終戦を迎え、孤児となった子はいるものの、53名の幼い命を守ったということで保母たちは安堵する。俳優陣の熱演に、胸が熱くなるシーンがたびたびあった。特に、ちょっと不器用な光枝だが、子供たちの心をつかむのが上手で、みっちゃん先生と子供たちから慕われ、一緒になって唄ったり遊ぶなどのみずみずしい演技に、拍手を送りたい。ただ、タイトルにもなったオルガンのエピソードが、足りなかったように思う。

監督・脚本 平松恵美子

保育園があった東京は空襲で焼けた(チラシより)