大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ネンブツダイ 分布の不思議

テンジクダイ科のネンブツダイは全長約10cmになり、千葉県以南~九州、台湾、朝鮮半島南部、中国南シナ海沿岸に分布している。分布に関しては図鑑によりまちまちなので、後述する。体色は半透明の肌色で、黄色やピンクがうっすら入ってきれい。また、顔に2本の黒帯、そして尾柄部に黒点がある。

ペアのネンブツダイ(大瀬崎)

 

ダイビングに熱中し始めた1960年代中ごろ、ダイビング関連の本に載っていた小魚の群れの写真には、大抵ネンブツダイと書かれていた。名前のおもしろさも手伝って、伊豆半島などで見る小魚は何でもネンブツダイだった。今考えると、クロホシイシモチはよく似ていたので、間違えていた人は多かったと思う。

ウミトサカのそばで群れるネンブツダイ(大瀬崎)

 

ネンブツダイとクロホシイシモチが混同されているのは、現在もあるような気がする。分布が図鑑によって異なるのは、その証ではないだろうか。クロホシイシモチは体色が薄茶色で、額に黒点があるのが特徴。そしてこれがネンブツダイとの相違点だ。

上がネンブツダイ(大瀬崎)下がクロホシイシモチ(奄美

 

昔からネンブツダイは、温帯域の魚かと思っていた。海外はおろか、九州以南で見たことがないからだ。海外の写真集や図鑑も調べたが、載っていたのはインドネシアの図鑑のみ。といっても撮影地は日本で、解説には日本沿岸限定と記されていた。

日本の図鑑では、1975年発刊の『魚類図鑑』から97年発刊の『日本の海水魚』までの計6冊、ネンブツダイの分布は「本州中部以南、中国(または台湾)、フィリピン」だった。ところが、2018年発刊『日本魚類館』では日本海慶良間諸島宮古島朝鮮半島南岸、西太平洋が加わり、分布が拡大されたのだ。臆病でひっそりと暮らす魚ならまだしも、大らかに群れる魚が今まで気づかれなかったのは不思議でしかたがない。釈然としないのだ。

大らかに群れるネンブツダイ(大瀬崎)

 

それはさておき、ネンブツダイの繁殖期は69月。群れの中からペアができ、離れて縄張りをつくる。メスが産んだ卵塊を受精させたオスが口にくわえて保護する。いわゆる口内保育を行うことが知られている。産卵は夕方だが、タイミングを見計らうのはとても難しく、何度も失敗している。

ペアになったネンブツダイ(土肥)