大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

シマキンチャクフグは無敵か? 

ずっと前から「擬態」には疑問をもっていた。人間の都合よい解釈のような気がしてならないのだ。例えばシマキンチャクとノコギリハギの関係。有毒のシマキンチャクに似ているお陰で無毒のノコギリハギは恩恵を受けている、という。そもそもシマキンチャクフグが有毒ということを、他の魚は知っているのだろうか。知っているのを前提でこの説は考えられている。

右がシマキンチャクフグで左がノコギリハギ(奄美

 

海の中では捕食者の周囲には、エサとなりうる小魚がうじゃうじゃいる。にもかかわらず、回遊魚以外は捕食するところはめったに見ない。たぶん早朝とか夕方など捕食する時間帯があるのだろう。それ以外にも暗黙のルールがあるに違いない。例えば、傷ついたり、弱っている魚しか襲わないなど…。

以前、タテキンの幼魚がニセゴイシウツボの顔に触れたのを見た。ウツボにとっては絶好のチャンスなのだが、事件は起こらなかった。暗黙のルールなのかもしれない。

タテキンの幼魚とニセゴイシウツボ伊平屋島

 

シマキンチャクフグの体色、白、黒、黄の色彩パターンが、有毒の信号になっている、と考えられている。したがって、同じパターンのノコギリハギ、コクハンアラ、ヨコシマクロダイなどは擬態が成立する、というのだ。

擬態種のノコギリハギ(上)とヨコシマクロダイ幼魚、コクハンアラ幼魚

 

これなども人間と同じに見えるという前提で「擬態」が考えられているのだ。なぜなら、シマキンチャクフグの画像の多くはストロボなどの人工照明を当てて撮られているため鮮やか。ストロボを持たない魚からは、違うように見えるはずだからだ。

照明を当てて撮った画像を、水深10mで見た場合を想定して編集ソフトでつくってみた(下右)。おそらく魚たちにはこう見えていると思われる。暖色系は消えてしまうが、コントラストはそう変わらない。魚たちは、コントラストが強いものには手を出してはいけない、という「護身」の情報がDNAに組み込まれているのではないだろうか。

ストロボ撮影した画像(左)と、この画像を水深10mで見たイメージ

 

ちなみに、シマキンチャクフグが実際にハマフエフキの餌食になったのを一度目撃している。また、図鑑などでもエソにくわえられているのを何度か見た覚えがある。有毒であることを知られていない証かもしれないが、その後捕食者がどうなったかは不明なので、やはりナゾであることには違いない。

ナゾ多きシマキンチャクフグ(奄美