大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ニセクラカオスズメダイについて

スズメダイ科のニセクラカオスズメダイは全長約10cmで、八重山諸島以南の西部太平洋に分布している。クラカオスズメダイと似ているものの、本種には縞模様がない。日本の図鑑に初めて載ったのは1984年発刊の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)で、八重山が北限と記されていた。その後に出された図鑑でも本種の分布は変わらなかった。当時、座間味で本種が見られないのはそのためと納得していた。

ニセクラカオスズメダイ08年、コモド)

 

生息環境は内湾の浅瀬の枝状サンゴが群生している海域。わりあい警戒心が強く、観察・撮影のため近寄ると、奥のほうに行ってしまう。初めて出会ったのはインドネシアのコモド諸島だが、実はその前に奄美で若魚を見ている。当時はクラカオスズメダイと区別できなかったので、確信がなかった。その後、クラカオスズメの幼魚も縞模様はないが、成長とともに現れると知り、この場所では両種が混泳していることがわかったのだ。

両種の若魚が混泳するサンゴ礁07年、奄美

 

奄美大島の南部の大島海峡は入江が多く、何度か訪れたときに本種の成魚が確認できた。また、体色は淡い青緑なのだが、変えることがあるうえ、光の当たり具合や見る角度によって若干異なる。本種が奄美に分布することが正式に確認されたのが、2019年発刊の『奄美群島の魚類図鑑』(南日本新聞開発センター)だ。

ニセクラカオスズメダイ14年、奄美

 

始めて訪れたコモドで、偶然本種の産卵を見ることができた。水深は約6mで、枝状サンゴが群生する中の葉っぱのような形のサンゴの裏側に産卵していた。

産卵中のニセクラカオスズメダイ08年、コモド)

 

奄美の大島海峡には入江がたくさんあるので、本種が適応する環境が揃っているといえる。沖縄本島慶良間諸島では見られないニセクラカオスズメダイ奄美に多く生息する明確な理由はわからないが、絶妙な黒潮の流れ、そして奄美独特の地形が関係しているのではないだろうか。

ニセクラカオスズメダイの若魚(18年、奄美