ベラ科のクロベラは全長約15cm になり、和歌山県以南の西部太平洋、インド洋に分布している。サンゴのポリプを主食にしているため、サンゴへの依存度はとても高い。オスの体色は青っぽく、クロベラという名にふさわしくない。
枝状サンゴの上を移動するクロベラのオス(奄美)
クロベラの幼魚の体色は黒で、口から尾まで細い白線が走っている。成長とともに白い線は消え、口元だけが黄色っぽくなってメスとして成熟する。したがって、和名の由来はメスと考えられる。
全長約4cmのクロベラの幼魚(石垣)
奄美や沖縄での繁殖期は5~8月で、その時期になると1尾のオスが10尾前後のメスを従えるハレムを形成する。オスはメスを見つけると急接近し、全体のヒレを広げながらアピールする。ハレムのメスすべてに行うので、結構大変だ。その間、隣の縄張りのオスが侵入することもあるため、追い払う仕事もしなければならない。
メスにアピールするクロベラのオス(座間味)
産卵は昼間で、潮の動きがあるときに行う。ハレムのメスが群がっているところでオスが上昇し、体をヒラヒラさせるような〝誘いの舞〟を何度も行う。産卵準備ができたメスはしだいに浮きはじめ、オスに近づく。そしてオスと並ぶと一気に急上昇し、放卵・放精すると素早くUターンする。最も危険な場面なので、すぐ海底に戻るのだ。そのため、産卵の瞬間の撮影は難しい。大抵オスの姿はフレームアウトしてしまう。体が大きいので速いというのがその理由でもある。
急上昇するクロベラのペア。右は産卵の瞬間(奄美)