大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

魅惑のフラッシャー・ラス

ベラ科クジャクベラ属は全長約8cmと小型ながら、ある瞬間に輝くのでフラッシャー・ラスと呼ばれている。世界に13種、日本にはクジャクベラ1種のみが生息する。クジャクベラは1981年に新種記載され、英名はピンク・フラッシャー・ラスあるいはカーペンターズ・フラッシャー・ラスという。和名は2000年ごろ付いた。先述の「ある瞬間」とは、オスが縄張り主張やメスに求愛するときで、ヒレを広げてダッシュしながら体色を変化させる。

マレーシアのシパダンで撮ったクジャクベラは背ビレが鮮やかな赤。海外の図鑑や資料では赤くないので別種かなと思った。だが『日本の海水魚』に西表で矢野維幾氏が撮られたクジャクベラの背ビレは赤だった。

クジャクベラ(シパダン)。左上は『日本の海水魚』より

 

インドネシアを中心に分布しているのがイエローフィン・フラッシャー・ラス。尻ビレが黄色で、背ビレのトゲ(フィラメント)が赤くて1本なのが特徴。

イエローフィン・フラッシャー・ラス(コモド)

 

どのフラッシャー・ラスも俊敏で体色を変えるのは瞬間なので、撮影には苦労させられる。とはいえ、うまく撮ろうと夢中でトライすることが案外楽しく、そしてよく撮れたときの悦びはひとしおだ。尾ビレの形とフィラメントの本数が多く、フラッシング時に背ビレの色が水色になる特徴のフィラメンティッド・フラッシャー・ラスは、特に動きが素早い。

フィラメンティッド・フラッシャー・ラス(ラジャアンパット)

 

主にインド洋に分布しているのが、マッコスカーズ・フラッシャー・ラス。フィラメントは1本で、背・尾・尻ビレが丸みを帯びているのが特徴。体色も背ビレ後半の水色と尻ビレの赤が対照的で、美しさが際立つ。太平洋各地でも生息が確認されている。

マッコスカーズ・フラッシャー・ラス(アンダマン海

 

手元にある図鑑や資料が20年以上前のものということもあり、種が判別できなかったものもいくつかある。同属は個体によっても体色変化に差があるうえ、求愛の本気度でも色合いが異なる。また、交雑種ができやすいことも判別しにくい要因だろう。種が不明だろうが輝くのは同じなので、美麗なフラッシャー・ラスに酔いしれたい。

種が判別できなかった4個体

1インドネシア・マノクワリ)2(コモド)3(コモド)4(リロアン)