フエダイ科のバラフエダイは相模湾以南の太平洋、インド洋に分布し、全長約80cmになる。主な生息地はサンゴ礁域で、九州以北のものは幼魚と思われる。成魚も幼魚も肉食性で、魚類や甲殻類を食べる。幼魚期にスズメダイ類への擬態をすることが知られている。
約4cmのバラフエダイの幼魚(石垣島)と、約70cmの成魚(モルディブ)
「擬態」の多くは、有毒で外敵がいない魚を装って恩恵を受けるケースで、防御が目的。例としては、シマキンチャクフグにそっくりなノコギリハギが挙げられ、前者をモデル、後者を擬態者(種)という。一方、バラフエダイの場合は、プランクトン食のスズメダイ類を装い、油断している稚魚を捕食する「攻撃型擬態」だ。
アナサンゴモドキのそばのバラフエダイの幼魚。左はモンツキスズメダイ(奄美)
これまで世界の多くの研究者やダイバーの観察によってモデルとされたのはキホシスズメダイ、ササスズメダイ、モンツキスズメダイ、リボンスズメダイ、タカサゴスズメダイ、シコクスズメダイ、オキナワスズメダイなどだが、大部分は近くにいただけで、捕食行動までは観察していない。
このことから攻撃擬態ではなく、群れのそばにいるのは安心安全のためと考える研究者もいて、意見の分かれるところでもある。確かに本種の幼魚のいる場所は、岩やサンゴ、ウミシダなどの底生生物のそばで、比較的安全なところだ。したがっていろいろな小魚が集まってくる。そう考えると、スズメダイ類と一緒になるのはたまたまと考えることもできる。
もし攻撃擬態だとすると、本種の幼魚はスズメダイ類の食性まで把握していることになる。浮遊生活を終えて1年くらいしか経っていないものが、はたしてわかるのだろうか。さらに、狙われる側の稚魚はより経験が少ないため、周囲の魚の食性などわかるはずもない。
とはいえ、本種の幼魚は体色を変化させるのが得意で、近くのスズメダイ類に合わせている、という説もある。意味は不明だが、全身黒くなったのを観察したこともある。また、フィジーでは前部が黒で後部が白になった個体を見た。シコクスズメダイの色彩パターンだが、大きさが異なるうえ、モデルがたくさんいるわけでもないため、あまり意味をなさない。まだまだ調査・研究が必要ということだろう。
左は全身黒い幼魚とササスズメダイ(奄美)、右は黒白のパターン(フィジー)