キンチャクダイ科アブラヤッコ属は、全長約10cmの小型の種がほとんど。警戒心が強いのが特徴。主にサンゴ礁域に生息し、日本で見られる代表的なものはアブラヤッコ、ナメラヤッコ、ヘラルドコガネヤッコ、アカハラヤッコなどだ。繁殖期は初夏から秋まで。
アブラヤッコ、ナメラヤッコ、ヘラルドコガネヤッコ、アカハラヤッコ
以前、奄美でダイビングのイベントが年3回(2,6,11月)あり、フォトセミナーを担当していた関係で毎回行っていた。それまでアブラヤッコ属の繁殖は夏までだと思っていたが、11月中旬にアブラヤッコの求愛・産卵を見たので驚いた記憶がある。
アブラヤッコの求愛(97年11月、奄美)
繁殖のピークはもちろん夏だが、水温が24℃以上でその個体の栄養状態がよければ、秋でも繁殖するのだ。そして、それを観察しやすいのがまさに秋。なぜなら、ほとんどのアブラヤッコ属の繁殖は日没の少し前だからで、夏の日没は19時近くになるため、大抵は夕飯の時間帯だ。
ヘラルドコガネヤッコの求愛(04年11月、奄美)
これまで11月中旬に奄美で潜ったときの水温は25~26℃だった。そしてアブラヤッコ属の求愛や産卵が見られたのは16時50分ごろ。3本目をゆっくりスタートすれば繁殖を見ても夕飯には戻れる。
魚を含む動物には体内時計がある。しかし人間が使用している時計とはやや異なり、いわば「日時計」のようなもの。つまり、日の出、日の入り、潮の干満などを感じ取り、それを基準に生活しているため、人間の基準では誤差が生じてしまうのだ。
アカハラヤッコは比較的生息数が多いため、繁殖行動の観察や撮影がしやすい。オスは背ビレと尻ビレ後端に水色と黒の縞模様があり(メスは尻ビレのみ)、繁殖のときになると輝く。ヒレを広げてメスの上方でアピールしたり、下からメスの腹部をつつくナズリングを行う。
ナズリングを行えば、ほぼ産卵まで進むが、大きな動きをするとメスが怖がって海底に戻ってしまう。順調ならば並んで急上昇し、放卵・放精して素早く海底に戻る。その場合、オスのほうが大きくて遊泳力もあるので、このように画面からはみ出てしまう。
産卵の瞬間。残されたメスのそばに卵が見える(05年11月、奄美)