サンゴ礁域に生息するスズメダイ類は、サンゴを産卵場所に利用するものも多い。とはいっても、生きているサンゴではなく、死滅しているか、白化などで活動停止しているサンゴだ。生きていると表面のポリプや粘液で卵は付着しない。例え付着しても、サンゴは異物と捉えて排除するのだ。カブラヤスズメダイはよくサンゴを産卵に利用するが、やはり選ぶのは死滅サンゴだ。
白化したサンゴに産卵するカブラヤスズメダイ(座間味)
クラカオスズメダイも死サンゴを利用する。生きているサンゴにも産卵することがあるが、根元や側面、裏側などポリプがないところだ。
死サンゴに産み付けた卵を守るクラカオスズメダイのオス(奄美)
スズメダイ類の中でヤマブキスズメダイはちょっと変わっている。産卵場所として利用するのはムチカラマツやヤギ類、イソバナ類など決まって刺胞動物なのだ。これらも死滅した部分に産むのだが、そんなに都合よく死滅部分があるわけがないので、表面を這いでいる可能性が高い。
ヤギ類に産み付けた卵を守るヤマブキスズメダイ(ラジャアンパット)
ヤマブキスズメダイが刺胞動物を選ぶ理由は、生息場所と無関係ではない。ヤマブキスズメダイの生息場所はサンゴ礁外縁で、潮の流れが強い。そのためプランクトンもたくさん流れて来て、それらをエサとする刺胞動物も多い。そうした環境に適応した結果なのだろう。
ヤギ類の太い幹の部分はすぐに枯れて折れることはない。そのため毎年産卵に利用すると思われる。しかし細いところは折れてしまうことがあり、しだいに小さくなって最後はなくなってしまう。これも新陳代謝なのだろうか。
エダムチヤギ(伊江島) オオイソバナ(座間味)