大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

魚の知能はどのくらい?

賢い動物といえばチンパンジーやイルカで、魚類は知能が低いが定説だった。それに異を唱える研究者が10数年前から現れ、魚類の行動を観察したり実験を行い、優れた知能を持っていることが証明された。その成果はテレビや書籍などで発表されているので、一部を紹介しよう。

9/23 NHK Eテレ『地球ドラマチック~実はすごい!サカナの知能』(フランス制作)が放送された。この中で生物学者のジャコモ・ベルナルティは、クサビベラが貝を岩にぶつけて割って食べることを発見した。岩という道具を使うことは、賢くなくてはできない。実は5年前NHK「ブループラネットⅡ」(BBC制作)でもクサビベラが岩を道具にしていた。未確認だが、情報提供者は同じ生物学者だと思う。

貝を岩に当てて食べるクサビベラ(地球ドラマチックより)

 

この番組では、動物行動学者のアレックス・ジョーダンによる、ホンソメワケベラの自己認識についての実験もあった。水槽の中に鏡を置き、映る姿が自分だと確認できるかのミラーテストだ。初めは敵とみなし攻撃するが、しだいにおかしいと気づく。しばらくすると泳ぎ方を変えたりし、映るのは自分なのかと思い始める。こうして攻撃はしなくなる。ただこれだけでは証明にはならない。そこでホンソメワケベラの体に茶色の印を付ける。鏡に映った姿に印があることに気づいたとき、どうするかが問題。砂や石でこすり取ろうとすれば、自己認識した証だ。番組ではその映像はなかったが、取り除こうとしたようだ。

ホンソメワケベラが鏡に映る姿に攻撃する(地球ドラマチックより)

 

ホンソメワケベラの自己認識については、大阪市立大学(現大阪公立大学)の幸田正典教綬も行っている。20214月にNHK Eテレの『サイエンス ZERO~びっくり!魚は頭がいい』でご自身も出演し、実験の内容を詳しく伝えている。実験はジョーダンが行った方法と同じで、ホンソメワケベラに付けた印は、砂底にこすりつけて取り除こうとした。

砂に体をこすりつけるホンソメワケベラ(サイエンス ZEROより)

 

ホンソメワケベラの自己認識について幸田氏は、20232月に出版された『最前線に立つ15人の白熱!講義 生きものは不思議』(河出書房新社)でも書かれている。タイトルは「魚も鏡の姿を自分とわかる~賢いのはヒトだけではない」。ここでは鏡像自己認知という言葉を使っている。ただ内容は、サイエンス ZEROで行った実験を書籍用にまとめたもので、加えてホンソメワケベラが顔のちょっとした違いで個体識別していることも明らかにしている。

『生きものは不思議』の表紙と幸田氏のレポート

 

この『生きものは不思議』にはアマミホシゾラフグも出てくる。「海底にミステリーサークルをつくる謎」がタイトルで、書いたのは千葉県立中央博物館分館 海の博物館の研究員・川瀬裕司氏だ。2011年に初めてミステリーサークルをつくるフグを見つけたとき、最初に連絡した魚類生態学者で、以来川瀬氏は10年にわたりアマミホシゾラフグの観察と、ミステリーサークルをつくる方法を調査・研究している。その成果が、ここに記されている。

また、先述した『地球ドラマチック』にもアマミホシゾラフグが登場している。美しい図形を描く賢い魚として取り上げられているのだ。発見者としては、実にうれしい。

左は川瀬氏の記事、右はミステリーサークル(地球ドラマチックより)