大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

謎多きウツボの生態

ウツボ科のウツボ茨城県以南~奄美大島朝鮮半島南部、台湾北部に分布している。全長約80cm になり、黄色味を帯びた明るい茶色の地に、褐色の斑紋が不規則に入っている。岩礁域に生息し、岩のすき間や岩穴に生息するが、砂地などに出現することもある。鋭い歯があり、魚類、甲殻類、タコ類などをエサにする。嗅覚も鋭い。

ウミトサカが付いた岩のそばで休むウツボ(富戸)

 

温帯域に適応したウツボは、伊豆半島から四国あたりの海でダイビングすればよく見られ、とても身近な魚といえる。動きも速いワケではないので、撮影もしやすい。

ヤギ類に乗っていることもある(宇佐美)

 

ウツボの繁殖に関しては、故ジャック・モイヤー氏が三宅島で観察した記録を魚類学雑誌(19822月号)に残している。それによると、1980815日午後430分に三宅島で2尾のウツボが尾部を緩くからませていた。そして突然腹部を押し付け合って離れ、水は放卵・放精のため白濁した。卵は直径約2mmの浮性卵で、親魚の保護は観察されなかった、とある。

40年前にこのようなデータがあるにもかかわらず、ウツボの産卵の写真は見た覚えがない。ネットで検索したが、南さつまで撮影されたワカウツボの産卵だけだった。身近な魚なのにどうしてなのだろう。

移動中のウツボ柏島

 

研究はされていて、東京海洋大学が千葉県館山で定点観察を行っている。繁殖期のメスは一定の場所に居つく傾向があり、オスは複数のメスを訪問して気が合えばペアリングするようだ。オスとメスの違いを外見で判断するのは難しいが、繁殖期になるとメスの腹部が膨らむらしい。産卵シーンを撮影したという情報もあるが、見ることはできなかった。

気が合って仲良く過ごすウツボ(富戸)

 

ウツボは「海のギャング」と形容されることがある。おそらく、タコを襲う場面を見てそう思ったのだろう。生きるための食料を得るだけなのに、そう思われるのは心外なのではないだろうか。クリーニングを受けているときのウツボは実に穏やか。表情もやさしく、とてもギャングには見えない。

オトヒメエビにクリーニングされてうっとりのウツボ(富戸)