大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

超珍しいウミタナゴの生態

ウミタナゴ科のウミタナゴは全長約23cm30cmの記録あり)になり、北海道中部以南九州、朝鮮半島南部、中国沿岸に分布している。藻場や岩礁域、砂地などに単独から数10尾の群れで行動している。以前から体色が若干異なるタイプが存在することが知られていたが、2007年にウミタナゴの別亜種であることがわかり、マタナゴの名が付けられた。とはいえ、外見で識別するのは難しいので、ここではウミタナゴで統一する。

ウミタナゴ(富戸)

 

エサは海藻類に付くワレカラ類、等脚類、小型貝類、アミ類など。

全長約15cmウミタナゴの若魚(兵庫県・豊岡)

 

ウミタナゴは、魚類としては珍しく胎生。10月ごろに交尾をし、4月下旬ごろに5cmくらいの稚魚を10尾前後産むという。こうした魅力的な生態を持つ魚の繁殖行動を、残念ながら観察・撮影していない。なぜなのかを考えると、伊豆でよく潜っていた90年代前半から中ごろには、まだウミタナゴの繁殖に関するデータがなかったからで、もっと気軽なベラ類やスズメダイ類に向いてしまったのだ。今さら後悔しても遅いが…。

群れで行動するウミタナゴ(富戸)

 

ウミタナゴの繁殖戦略は、稚魚をより大きくしてから産むことにある。そのため出産数は10尾前後と少ない。それでも、天敵から捕食される確率を下げるメリットがある。

せっかく築き上げてきたウミタナゴの繁殖戦略も、今後意味をなさないかもしれない。気候変動による海水温の上昇だ。状況いかんでは繁殖どころか、生存すら危ぶまれてしまう。そのような事態にならないことを祈りたい。

低水温を好むウミタナゴ(富戸)