大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

カモハラギンポの謎

イソギンポ科のカモハラギンポは全長約8cmになり、相模湾以南~琉球列島に分布している。日本固有種と考えられている。高知県で得られた標本を基に、1956年日本人研究者が新種記載した。標準和名、学名の種小名に「カモハラ」が付いているのは、高知県出身の魚類学者・蒲原稔治博士の功績を讃えての献名。カモハラギンポの体色・斑紋は2タイプある。黒地に白いラインが吻から尾柄部まであるのは共通するが、目の下が網状の模様のタイプと、目の下に短い白ラインが23本入るタイプだ。

カモハラギンポ。上をAタイプ(柏島)、下をBタイプとする(奄美

 

84年発刊の図鑑によると、本種は近縁のニジギンポと体色・斑紋の違い以外形質の差はないため、変異の可能性があると記されている。しかし、その後の図鑑でも別種扱いになっている。奄美では冬になると本種が56尾で群がる傾向が強い。繁殖相手を探すためだろうか。

冬になると群がる傾向がある(奄美

 

夏に柏島で、本種のAタイプが争う場面に遭遇した。通常魚類が争うのは、オス同士が縄張りを巡ってか、メスを巡ってなので、Aタイプはオスだと判断した。

争うAタイプ(柏島

 

ある年の6月、奄美で本種のオスがメスを誘っている場面に出会った。イソギンポ科の求愛や産卵に誘う行動はどの種もほぼ同じで、オスが上下に移動する動きで自分の巣穴までメスを誘導する。そして巣穴に入ってすぐに出てくる。位置を教えているのだ。その際体色を青っぽく変える。

メス(左)に対して巣穴を教えて出てきたオス(奄美

 

メスが気に入れば入って産卵し、出た後オスが入って受精させる。その後はオスのみが卵の世話を行うのだが、奄美で卵保護の写真を確認したら、Aタイプだけではなく、Bタイプもあった。ということは体色・斑紋の違いは雌雄差ではないのだろうか。謎だ。

卵保護するAタイプとBタイプ(奄美