大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

スミレヤッコ物語

キンチャクダイ科のスミレヤッコは、伊豆大島で得られた標本を基に、1969年に日本人学者によって新種記載された。全長は12cmで、現在の分布は伊豆大島以南、琉球列島、台湾、フィリピン、パラオになっている。初めて出会ったのは1979年に小浜島へ行ったときだが、フィルムが終わっていて撮影できなかった。とはいえ、その美しい姿は脳裏に焼き付いていた。

暗いところを好むスミレヤッコ(奄美

 

その後座間味島で再会でき、撮ることが叶った。本種の生息場所は海底断崖のすき間で、めったに明るいところには出てこない。かなり警戒心が強いからで、撮影するためには静かに観察し、行動パターンを把握する必要がある。

壁面のすき間が生息場所のスミレヤッコ(奄美

 

鮮やかな黄色と青でかなり映えるスミレヤッコだが、個体によって配色が少し異なる。黄色が頭部までいかないタイプや超えて反対側まで続いているものまでさまざま。雌雄による違いなのか、それとも単なる変異なのか、よくわかっていない。

腹部が膨らんでいるのでメスだろうか(奄美

 

91年に属名が変更された。それまでは日本には生息しないキンチャクダイ類と同じ属名だったため、再検討が必要との声があったようだ。結局シマヤッコと同じ属名になり、日本語では「シマヤッコ属」を当てている。

キンチャクダイ科シマヤッコ属のスミレヤッコ(座間味)

 

海外では台湾やフィリピンなどでも生息が確認されているが、実際にはなかなか出会えない。海外の図鑑でさえ本種が掲載されていれば、沖縄で撮影されたものばかりだ。生息数が少ないうえ、警戒心が強いため、そう簡単には出会えないし、撮影も難しいのだろう。そういう意味では「日本特有種」だ。

粘れば正面からの撮影も可能(奄美