大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

オハグロベラ近縁種に和名

 ベラ科オハグロベラ属のオハグロベラは、青森県以南~九州南部、朝鮮半島南部、台湾、中国沿岸に分布している。温帯域に適応したベラで、琉球列島や熱帯海域には分布していない。ところが、1985年に慶良間諸島オハグロベラらしきベラを見つけて撮影した。サンゴ礁域にはいないはずなのに、どうしてだろうと不思議に思った。 

オハグロベラのようなベラ(85年、座間味) 

 

海外の図鑑を調べてみると、オハグロベラの近縁種が2種存在し、学名も付いていることがわかった。94年に発刊された『日本産魚類生態大図鑑』(益田一、小林安雅共著、東海大学出版会)には近縁種2種が掲載され、1種はコッカレルラス、もう1種はスニーキーラスと表記されていた。その後も同じようなベラを撮影したが、どうやらコッカレルラスに該当するように思えた。 

コッカレルラス(88年、座間味) 

 

その後も奄美で、コッカレルラスと出会った。ボートを留めるブイのロープのところにいた。これまでもそうだが、単独だった。伊豆で見るオハグロベラは、生息数が多いため、争いや求愛などおもしろい行動を目にするのだが、コッカレルラスは単独なので、いつも休んでいるか、ゆっくり移動しているだけだった。 

砂地のロープのそばにいたコッカレルラス(96年、奄美) 

 

長年英名のままだったが、昨年標準和名が付いた。キツネオハグロベラだ。鹿児島大学総合研究博物館の研究チームが、屋久島と口永良部島から得られた標本を基に日本初記録種として発表したのだが、和名を考えたのは同研究チームの学生だったらしい。 

本種は成長過程、生息環境、感情変化などで体色・斑紋をよく変えるので、識別するのは難しい。そんな中で、体側に現れる複数の白い線が特徴らしい。とにかく和名が付いたのでスッキリした。 

コッカレルラスからキツネオハグロベラに(13年、座間味)