大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

尾ビレの色の意味(クマノミ編)

スズメダイ科のクマノミは全長約10cmになり、千葉県以南の中・西部太平洋、インド洋に分布している。数種のイソギンチャクを宿主にするが、アラビアハタゴイソギンチャクに住むと体色が黒くなる。通常、イソギンチャクには成熟したオス・メス1組と未成熟魚数尾が住み、大きさによる序列がある。オスの尾ビレの上下には黄色が入り、一方メスのそれは白い。

シライトイソギンチャクに住むクマノミ。左がメスで右がオス(座間味)

 

オスの尾ビレに入っている黄色の範囲は、生息海域によって異なる。先ほどの例は日本のサンゴ礁、つまり南西諸島のクマノミの場合で、九州以北、つまり温帯域のオスは、尾ビレ全体が黄色い。ところが、南西諸島にも同様のオスが少なからずいる。魚類学者に聞いたところ、生息密度が低いからではないか、とのことだった。クマノミはイソギンチャクからあまり離れないので、見える範囲がこの場合の生息密度だろう。

尾ビレ全体が黄色いオス(伊豆大島

 

日本以外の西部太平洋のものは、オスの尾ビレの黄色が少ししかない。個体差はあるものの、日本のものと比べると細い。離れたところから見ると、どちらがオスかわからないほどだ。

アラビアハタゴイソギンチャクに住む、黄色の部分がとても細いオス(コモド)

 

一方、インド洋のものは、オス・メス共に尾ビレが全体的に黄色い。区別がつかずに不便そうに感じるが、まったく問題ないと思う。そもそも繁殖できるクマノミはイソギンチャクに1組しかいないうえ、どちらかが死なない限り相手は変わらない。そうしたことで、尾ビレの色はさほど大した意味を持たない。

どちらも尾ビレが黄色いインド洋のクマノミモルディブ

 

どちらの尾ビレも黄色いのは、日本の四国(柏島)にもいた。先述したように、尾ビレの色がどうであっても生息するうえでまったく問題ない。おそらく大昔にクマノミの繁殖形態が進化する前には重要な働きがあったのだろう。しかし現在は、カクレクマノミやハマクマノミなど他のクマノミ類も尾ビレの色に雌雄差がないので、いずれクマノミもそうなるに違いない。

インド洋タイプと同じ尾ビレのクマノミ柏島