ハゼ科のオイランハゼは全長約12cmになり、屋久島以南の西部太平洋、インド洋に分布している。内湾の浅瀬の砂泥底にテッポウエビ類と共に生息している。体側には赤茶の縞模様、顔周辺にはピンクや水色の斑点、背ビレにもピンクの楕円の模様があり、華やか。共生エビはトウゾクテッポウエビの場合が多い。
オイランハゼとトウゾクテッポウエビ(西表)
オイランハゼはこれまで奄美や西表、タオ島などで観察・撮影したが、いずれも巣穴から体を出しているのを見ると単独だ。しかも体色・斑紋は同じようなので、オスとメスの区別はないものと思っていた。ところが『決定版 日本のハゼ』(平凡社)を見ると、メスの第2背ビレは楕円模様ではなく縞模様で、オスと明らかに異なる。自分の写真を調べたら、背ビレを広げていて確認できたのはすべてオスだった。
『日本のハゼ』に掲載されているオイランハゼのメス
生息場所が内湾で濁りがあるため、観察・撮影はそう簡単ではない。そんな中でも熱心なフィッシュウオッチャーは、90年代にオイランハゼが全体のヒレを広げてホバリングするところを観察・撮影し、ダイビング雑誌などに発表。そのお陰もあっで知名度がアップした。ホバリングするのは求愛だと考えていたが、長年ハゼ類の観察・撮影を続けている矢野維幾氏(日本のハゼの写真担当)によると、自己アピールだという。求愛も含めて、同種に自分のテリトリーを知らせる行動のようだ。どうあれ、この行動は見ごたえがあるので、密かに「花魁ショー」と呼んでいる。
花魁ショーこと、オイランハゼのアピール(タイ・タオ島)
タオ島で、オイランハゼがヒレを広げてホバリングするのを狙っているとき、あぶれオスが近寄って来た。すると巣穴から体を出していたオスは、口を開いて威嚇した。追い払った後にホバリングしたので、やはりアピールの意味が強いことを知ったのだった。
近寄るあぶれオスに威嚇するオイランハゼ(タイ・タオ島)
よくよく考えると、ヒレを広げてのホバリングは、タオ島でしか観察していない。奄美ではけっこう粘ったのだが、ホバリングすることはなかった。どういうタイミングで行うのか詳しく調べて、またあの感動の「花魁ショー」を見てみたいものだ。
砂泥底ではなくガレ場にいたオイランハゼ(奄美)