タツノイトコの仲間の中で特に小型のものをピグミーシーホースという。数種いるので、それぞれ頭に種小名を付けて区別することが多い。最も有名なのがこのバージバンティ・ピグミーシーホースだ。ニューカレドニア産の標本を基に1970年に新種記載された。大きさは約2cmしかない。宿主(しゅくしゅ)は特定のヤギで、宿主そっくりな姿形をしているのが特徴。
隠蔽効果抜群のバージバンティ・ピグミーシーホース(コモド)
本種がダイバーに知られるようになったのは90年代後半で、パプアニューギニアで撮られた写真がダイビング誌に載ったのがきっかけ。すぐに沖縄や小笠原で見つかったが、未だに和名がない。本種の体にはコブ状のものがいくつもあり、ヤギのポリプとよく似ている。ヤギは潮の流れがあると赤いポリプを広げてプランクトンを食べるが、本種のコブは色を合わせることができるみたいだ。
背中側だけポリプの赤に合わせている(座間味)
栢島に全体が赤い個体がいた。ヤギのポリプは開いていないので、目立ってしまう。どうしてなのかは不明だが、可能性としては移動してきたのかもしれない。というのは、本種はライトの光が嫌いなので、長く当てられると離れて行くからだ。ポリプが開いていたヤギにいたが、光が嫌でこのヤギにたどり着いたとも考えられる。
よく目立つ赤い個体(柏島)
宿主であるヤギの色に体を似せることができることは先に述べた。黄色いヤギだと体も黄色くなるらしい。パプアニューギニアで黄色い個体も撮ったのだが、別種にしか思えない。間違えるのは嫌なので、オーソドックスなほうを出すことにした。
雑誌などで本種の写真を見ると、姿勢がよいものばかりだ。実際は下やうしろを向いたり、ヤギの裏に隠れたりしてとても撮りにくい。みんな粘ってよい姿勢になるまで待っているようだ。特にペアでいる場合、2尾ともよい姿勢になるのは奇跡に近い。それはともかく、こんな小さくて隠蔽術に長けた魅力的な魚が、なぜこの世に誕生したのか不思議でしかたがない。
なぜか片方が赤いペア(柏島)