イナセギンポはイソギンポ科テンクロスジギンポ属で、全長約7cm。相模湾以南の西部太平洋に分布しているが、成魚が普通に見られるのはサンゴ礁域だ。体は灰色と黄色のグラデーションで、口元は赤味を帯びる。遊泳タイプで、サンゴや岩に巣穴を持つ。食性は他の魚の皮膚。つまり、ウロコやヒレなどをかじり取っている。
同科にイナセギンポによく似たオウゴンニジギンポがいる。下あごの犬歯に毒腺があるため、天敵は少ない。主食は藻類やプランクトン。イナセギンポはオウゴンニジギンポに擬態していることが知られている。そっくりなお陰で、天敵から敬遠され、しかも容易にエサが捕れる。
イナセギンポは両眼を結ぶように白線がある。このことは図鑑にも記されている。ところが、泳いでいるときには白線はない。昔、本種がエサを捕る瞬間の撮影に挑戦したが、とても素早くて失敗。だが、巣穴から出ると白線が消え、入ると現れることが観察できた。
巣穴に入ると白線がくっきり出る(座間味)
巣穴から出て遊泳すると徐々に白線は消えてゆく。いうまでもなく、よりオウゴンニジギンポに似せるためだ。
巣穴から出て白線が薄くなった(奄美)
フィジーにもイナセギンポが分布している。しかし体色は黄色一色。日本のイナセギンポとは別亜種だそうだ。ちなみにフィジーのオウゴンニジギンポも別亜種で、全身黄色。魚の世界は複雑でおもしろい。