ドン・キホーテの入口には、水槽がある。お馴染みの海水魚がいたり、入れ替わったりするので、浅草店の水槽はときどきチェックしている。先日、なんとバーンガイカーディナルフィッシュが入っていた。超レアな魚をなぜ入れることができたのだろうか。
バーンガイカーディナルフィッシュはテンジクダイ科で、全長約7cmになる。インドネシア・スラウェシ島のそばのバーンガイ島で発見され、1933年に新種記載された。しかし辺ぴな場所ということもあり、誰も調査に行かなかった。発見から61年後の64年、オーストラリアのジェラルド・アレン博士と水中写真家のロジャー・スティーン氏が調査を行い、生息状況や生態が明らかになった。
バーンガイカーディナルフィッシュの若魚(レンべ)
テンジクダイ科はオスが受精卵をくわえてふ化するまで保護し、ふ化した仔魚は浮遊生活をする。ところが、バーンガイカーディナルフィッシュだけはふ化後の仔魚もしばらくは口に入れて保護する。アフリカの湖に棲むシクリッドの仲間が同じような口内保育をするが、海水魚で知られているのは本種だけだ。
ふ化直前の卵をくわえたオス(バリ)
このような珍しい生態をもつ固有種なので、水槽で飼育するマニア(アクアリスト)にとっては垂涎の的。当然採集業者も動いた。現在の分布はバーンガイ島、レンべ島、バリ島(いずれもインドネシア)だが、マレーシアにもいるというウワサがある。分布が広がった理由は、人為的要因が大きいと考えられている。
稚魚をくわえたオス
本種は卵の数は少ないが、ある程度まで保護して浮遊生活を省くため、成魚になる確率はとても高く、ゆえに繁殖力は旺盛。水槽内で人工繁殖させているのかもしれない。ドン・キホーテの水槽にもたくさんいたので、採集したとは考えにくい。親の口から出た稚魚は、ガンガゼやサンゴ、イソギンチャクなどのそばで暮らす。日本にはいないにもかかわらず、アマノガワテンジクダイという和名がある。もちろん標準和名ではない。おそらくアクアリストが付けたのだろう。
ガンガゼのトゲの間に暮らす、全長約3cmの稚魚(バリ)