チョウチョウウオ科のスミツキトノサマダイは、相模湾以南の西部太平洋に分布している。全長約15cmで、主にサンゴ礁にペアまたは単独で生息し、サンゴのポリプを主食にしている。
スミツキトノサマダイのペア(座間味)
幼魚は内湾のサンゴのすき間にいることが多い。また、一部は黒潮に運ばれて本州沿岸にたどり着き、厳しい環境で生活することになる。
約3cmの幼魚(座間味)
スミツキトノサマダイの和名がずっと気になっていた。当初は体側の青い斑紋がスミなのかと思ったが、「墨」は黒なので、尾柄部の黒斑のことだと考えるようになった。だが「トノサマダイ」がひっかかる。そこで寝姿を思いついた。眠るときは青い斑紋が黒くなるのだ。死んだときも同じ。昔の学者が扱うのは標本だけだろうから、トノサマダイと同じに見えたに違いない。
上は昼と夜の違い(『日本の海水魚』より)。下はトノサマダイ(奄美)
昔は幼魚が本州などに行ったとしても、冬季の水温の低下で生き延びるのが大変だった。ところが最近は、温帯域でも成魚が見られる。どうやら越冬しているようだ。高知県の柏島では幼魚はもちろん、成魚も普通に見られるようになった。
成魚も普通に見られる(柏島)
以前は、インド洋東部のアンダマン海にはスミツキトノサマダイの青い斑紋がないタイプがいた。地域変異でアンダマンタイプなどといわれていた。しかし、2000年ごろに別種ということがわかり、新種になった。学名はアンダマンにちなんだ種小名になり、英名もアンダマンバタフライフィッシュという。