大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

チンアナゴの履歴書

チンアナゴが新種記載されたのは約60年前。この経緯については後述するとして、日本で生息が確認されたのは1970年代後半。テレビ番組「マチャアキ海を行く」が奄美ロケで発見した。この番組がきっかけで沖縄各地でも見つかり、座間味にもいることがわかったが、警戒心が強くて近寄れなかった。


'80年に撮影したチンアナゴの写真
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'79年日本初記録として、魚類学者の阿部宗明博士らによって和名が付けられた。何とか撮影したいと思っていたら、『マリンダイビング』('795月号)にガーデンイールの撮影法が載っていた。それを真似て撮ったのがこの写真。観賞魚雑誌『フィッシュマガジン』('8011月号)に掲載したもので、おそらくチンアナゴ水中写真が雑誌に載ったのは初めて。





『環礁の王国』
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新種記載されたのは1959年。生物学者のアイブル=アイベスフェルトが'57年にハンス・ハスの研究船「クサリファ号」で調査中、モルディブで発見し、新属新種だったことから学名をXarifania hassiとした。属名は研究船の、種小名はハンス・ハスの名で、尊敬の念から捧げた(献名という)のだ。この経緯は彼の著書『環礁の王国』('73年、思索社)に書かれている。




『海底旅行』の表紙とハンス・ハス夫妻
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これを読み、ハンス・ハスの偉大さを再認識した。というのも、ぼくがスノーケリングを始めたころに出会った衝撃的な本が『海底旅行~七つの海の記録~』('61年、秋元書房)で、著者がハンス・ハスなのだ。研究船「クサリファ号」で世界各地の海を調査と水中撮影をして巡った記録が書かれていて、当時ワクワクして読んだのを覚えている。ハンス・ハスはライカローライフレックスなどのハウジングも作っていて、ローライマリンは有名。





憧れの的、ローライマリン
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写真には撮影地、カメラ、フィルム、露出などのデータが記されていて、後に参考にした。また、ローライマリンで撮影中の写真もあり、ずいぶん憧れた。かなり後になってだが、ローライマリンを手に入れて長い間愛用した思い出がある。この本は'56年にガラパゴスを探検したところで終わっているので、チンアナゴの発見はこの後になる。だが、チンアナゴがハンス・ハスとかかわっているとは知る由もなかった。







ニコノスでの遠隔装置の図解
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先述したガーデンイール撮影法は、当時八丈島の東京水産試験場にいた浅井ミノル氏が書いたもので、彼は阿部宗明博士、三木誠氏らとシンジュアナゴの新種記載をしている。シンジュアナゴを撮影するために考えたようで、図も描かれている。後に仕事を通して浅井氏とは懇意になった。都の職員のため異動が多く、葛西臨海水族園立ち上げにも尽力された。





『世界の海水魚』のチンアナゴ
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図鑑に初めてチンアナゴが載ったのは『日本産魚類大図鑑』('84年、東海大学出版会)だが、標本写真。水中写真が最初に使われた図鑑は知る限り『世界の海水魚』('87年、山と渓谷社)で、ぼくがお貸しした。一眼レフが普及し、マクロレンズを使えば撮れる時代になったのだ。というわけで、チンアナゴとは昔からかなりつながりがあった。ちなみに、チンアナゴの属名は変わり、今はHeteroconger hassiになっている。