大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

スミツキソメワケベラの習性

クリーニングフィッシュとしてよく知られているのは、ベラ科ソメワケベラ属のホンソメワケベラ。同属にスミツキソメワケベラがいる。全長約7cmで、胸ビレの下にある黒斑が特徴。慶良間諸島以南の西部太平洋に分布するが、日本にはきわめて少ない。

あくびをするスミツキソメワケベラ(コモド)

 

『日本の海水魚』(山と渓谷社97年発行)が出版される前までの分布は、小笠原諸島以南の西部太平洋だった。ところが、ぼくが座間味島で撮影した写真をこの図鑑に掲載したのを機に、分布が書き直された。

93年に座間味で生息が確認されたスミツキソメワケベラ(座間味)

 

スミツキソメワケベラに初めて出会ったのはバリ島だった。88年のことだが、その後オーストラリアやマレーシアなど熱帯海域ではよく出会った。ところが、クリーニングをしている姿はほとんど見たことがない。海外の写真集などを調べてもクリーニングシーンは載っていないのだ。

バリ島のスミツキソメワケベラ(88年、バリ)

 

コモド諸島で一度だけ、ドクウツボにクリーニングしている瞬間を撮ったが、すぐ離れてしまった。海外で本種がクリーニングしているのを見たのはこれが最初で最後だった。

ドクウツボをクリーニングした瞬間(コモド)

 

一方、日本に生息するスミツキソメワケベラは、生息数が極端に少ないにもかかわらず、海外のものと比べるとクリーニングに熱心に見える。93年座間味で、ミツボシクロスズメダイやアカハナをクリーニングしているところを撮影した。そして97年に奄美でトサヤッコをクリーニングしているのを観察・撮影している。

アカハナをクリーニングするスミツキソメワケベラ(93年、座間味)

 

これらを総合すると、海外に分布する本種は、クリーニングにあまり熱心ではないことがわかる。理由は不明だが、他にエサがたくさんあるのかもしれない。それにしても日本に分布するものだけがクリーニングに熱心なことも不思議なことだ。

口の中が赤いのも特徴のスミツキソメワケベラ(コモド)