大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

根は、海中社会

砂地やガレ場など平坦な海底にある、小高い岩礁サンゴ礁を「根」という。きちんとした定義があるわけではないが、ダイバーの視点からすると、幅5m前後、高さ4m前後というのが大まかな大きさだ。こうした根は、条件が揃えば多様な生きものが集まり、よいダイビングスポットになる。

条件が揃った根はいろいろな生きものが集まる(座間味)

 

条件とは、大きさ・潮の流れ・根にある亀裂や穴などだが、特に大事なのがクリーナーシュリンプが住める亀裂や穴だ。クリーナーがいることでハタ類やウツボ類が住むようになり、小魚も隠れるところがあることで集まるようになる。こうして理想の根になるわけだが、これを「海中社会」「海中の街」と言ったのが海洋学者の故ジャック・モイヤー氏だった。

クリーナーが住むのも条件(座間味)

 

確かにいろいろな生きものが住むことにより、一つの社会が築かれるのは実感できる。ただ不思議なのは、ハタ類やウツボ類がいるにもかかわらず、多くの小魚が集まる理由だ。おそらく何らかのルールがあるのではないだろうか。というのは、これまでハタ類が小魚を捕食する場面を見ていないからだ。弱っていて動きがおかしな個体しか食べないという、暗黙のルールがあるに違いない。また、他の捕食者が来ると追い払うので、やはり家族のような心境なのかもしれない。

夏になると小魚のキンメモドキが根を覆う(奄美

 

根にはクマノミ類やスズメダイ類が住みついていて、繁殖にいそしんでいる。それぞれが生きるために懸命なのだ。

根に住むハマクマノミ奄美

 

根では頂点に位置するハタ類だが、それらがいなくなると根(社会)が衰退してしまうことが知られている。実際にハタ類が漁獲され、小魚もいなくなってしまった根を何度か観察している。こう考えると、微妙なバランスで根の社会が成り立っているのがわかる。根は年月の経過とともに流れやうねりなどで風化し、やがては海底の砂利になってしまう。静かに見守るしかない。

アザハタが住んでいた根は、今は衰退してしまった(座間味)