大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

キツネウオ幼魚騒動記 

1980年代中ごろ、水中撮影に適したマクロレンズが発売されたお陰で、小さな生きものが注目され始めた。それに伴い、幼魚好きダイバーが増え、珍しい幼魚を撮ってはダイビング誌に投稿するようになった。そうして評判になったのが、イトヨリダイ科キツネウオ属の1種で、青い体に黄色い帯があるきれいな幼魚だ。 

約5cmのキツネウオ属の1種(奄美

 

87年に発刊された『世界の海水魚』(益田一・ ジェラルド R アレン共著、山と渓谷社)に、その幼魚がプリンセス モノクルブリームという名で掲載されていた。 

ところが、よく見ると沖縄や奄美で見られる幼魚と模様が少し違う。その後いろいろなダイバーの写真を調べると、体側に黄色い帯2本、そして頭部にも細い黄色の線があるタイプと、体側に黄色い帯が2本のみで、2本とも前方で反対側とつながっているタイプがいることとがわかった。後者が『世界の海水魚』に載っていたタイプだ。 

約4cmの黄色い帯が2本のみのタイプ(座間味) 

 

わかりやすくするため前者をAタイプ、後者をBタイプとするが、日本ではBタイプのほうが少ない。その理由は、生息数が少ないうえに生息水深が深いからだろう。 

このころ、Aタイプはキツネウオの幼魚に間違いないだろう、とダイバーは薄々感じていた。となると、Bタイプは何なのだろう? 

約20cmのキツネウオの成魚(奄美 

 

あるとき、座間味でキツネウオの幼魚とフタスジタマガシラの幼魚が一緒にいた。色彩パターンが何となく似ている。実は、フタスジタマガシラの幼魚は、毒牙を持つヒゲニジギンポに擬態していると考えられている。キツネウオの幼魚は、フタスジタマガシラのそばにいれば安全と、本能的に感じているのかもしれない。 

約6cmのフタスジタマガシラの幼魚と約8cmのキツネウオの幼魚(座間味) 

 

その後魚類学者の研究の結果、Aタイプはキツネウオの幼魚と正式に判明し、Bタイプは海外の学者により、2001年に新種記載された。日本でも調査が進み、2007年に日本初記録種として、ヤクシマキツネウオと命名された。ダイバーを騒がせたキツネウオ属の幼魚はこれで決着がついたわけだが、キツネウオよりヤクシマキツネウオのほうが分布が広い。にもかかわらず成魚が見られないのはなぜだろう。 

ヤクシマキツネウオ(講談社の『MOVE 魚』より)