ハナヒゲウツボについてはこれまで何度も取り上げたが、今回は分布について考えてみたい。ダイバーにハナヒゲウツボが知られるようになったのは、73年に発行された、故・後藤道夫氏の写真集『珊瑚礁の海』(講談社)だったように思う。奄美で撮影されたそれはとても華麗で、心に残る魚だった。実際に出会ったのは79年沖縄・座間味島で、意外に小さいと感じた。
小魚を狙うハナヒゲウツボ(座間味、84年)
その当時の本種の分布は、『魚類図鑑~南日本の沿岸魚~』(東海大学出版会、75年)によると奄美大島以南、西部太平洋だった。この分布は、97年発刊『日本の海水魚』(山と渓谷社)まで変わらなかった。手元にある海外の図鑑『Micronesian Reef Fishes』(89年、Coral Graphics)の分布は東アフリカ~ニューカレドニア、南日本~オーストラリア。つまりインド洋にも分布していることが記されているのだ。他の海外の図鑑も同様だった。
最新の『日本魚類館』(小学館、18年)でようやく新たな分布になった。それが和歌山県串本以南の中・西部太平洋、インド洋だ。
これまで本種をいろいろな海で撮影し、その場所を赤丸で示した。最も北が柏島、西がモーリシャス、東と南がニューカレドニアで、ほぼ図鑑の分布どおり。地名が書いてないのは奄美、沖縄、フィリピン・セブ島、パプアニューギニア、コモドになる。
インド洋と太平洋の地図。赤丸が撮影した場所
インド洋のモルディブには'7~8回行っているが、本種には出会っていない。したがって、生息数が極端に少ないのかもしれない。ところが、04年にインド洋のモーリシャスを取材したら本種は意外に多く、述べ8尾見た。数だけでなく、メスといわれている黄色いタイプや泳ぐ姿にも遭遇できた。
北限とされているのが串本だが、過去に2度しか潜っていない。少ないので当然だが、見たことはない。成魚がいるのか気になるところだ。自分的には柏島で撮影したのが北限で、黒いタイプの幼魚と、青いタイプのオスも生息していた。
最も東の分布がニューカレドニア。南はモーリシャスとニューカレドニアがほぼ同じ緯度だが、後者のほうが若干南に位置するので、ニューカレドニアが東と南を制した。ニューカレドニアで出会ったことも意外な感じがした。理由は定かではないが、いないと思っていたにもかかわらず、同時に2尾見たからかもしれない。
近くに2尾いた(ニューカレドニア)