大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

ほぼ伊豆固有のサクラダイ

ハタ科ハナダイ亜科サクラダイ属のサクラダイは、全長約13cm前後。メスの体色はオレンジ色で、背ビレの中央に黒斑がある。オスはメスより大きく、体色は赤。体側に白の斑紋が不規則に入っている。メスからオスに性転換することが知られているが、昔はわからなかったためにメスはコンゴウサクラダイと呼ばれ、別種とされていたらしい。

サクラダイのオス(上)とメス(大瀬崎)

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サクラダイが新種記載されたのは1879年で、140年も前の明治時代だ。相模湾から得られた標本で外国の学者が記載したという。日本ではまだ生物学が確立されていなかったため、漁師が雑魚としてはじいたものを学者が発見したと思われる。当時は和名も付いていなかった。後にサクラダイと付けられたものの、誰がどういう経緯で命名したかはわかっていない。

手前がオスで奥がメス。オスの背ビレの一部は伸長する(伊東沖)

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サクラダイに出会った海を思い返すと、真鶴以外は伊豆半島のみ。つまり相模湾駿河湾以外では見ていない。本種の分布は、『日本の海水魚』(山と渓谷社)によると相模湾~長崎、八丈島だ。これ以前の図鑑でも「南日本」だった。『日本の海水魚』は19972005年まで版を重ね、現在でもダイバーのバイブル的存在。そのため、サクラダイは日本固有種と思われていた、130年もの間…。

サクラダイのオス(大瀬崎)

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最新の図鑑『日本魚類館』(小学館)にある本種の分布は、伊豆ー小笠原諸島相模湾~九州南岸、朝鮮半島南岸、台湾南部となっている。とはいえ、図鑑や写真集にあるサクラダイの撮影地はすべて伊豆半島になっているのだ。不思議に思っていろいろ調べたら、鹿児島湾(錦江湾)と八丈島で撮られた写真があった。錦江湾水深52m八丈島は安全ギリギリの水深と書かれていた。伊豆以外で生息が確認されているところは、釣りか網などにかかったものを標本としたのだろう。

潮の流れがある沖の根では大群が見られる(西伊豆・ワラサ根)

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推測すると、相模湾駿河湾伊豆半島)に生息するサクラダイは、観察できる範囲の水深で暮らしている。それに対して伊豆以外のサクラダイは、極端に深い水深にいるため、なかなかお目にかかれないようだ。健全なダイビングで見られるのは伊豆だけとなると、サクラダイは伊豆固有種といってもよいのではないだろうか。

ウミトサカの周囲にいることが多い(大瀬崎)

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