現在放送中のNHK朝ドラ「おかえりモネ」。宮城県気仙沼の離島で生まれ育ったモネ。高校卒業後、森林組合に勤めながらしだいに気象の世界にひかれ、気象予報士を目指し成長する姿を描く物語。カキの養殖業をしている祖父が「森と海はつながっている」とモネにたびたび話す。このドラマには、森と海のかかわり、つまり、森が豊かでなければ海も豊かにならない、というメッセージが込められている。
NHK「おかえりモネ」(NHKHPより)
海の異変に気づいたのは30年前。91年、財団法人・海中公園センター研究員のF氏と共に、北海道の小樽・積丹海中公園の調査・撮影を行った。海中公園は、70年代に乱開発防止のため、環境省(現環境庁)が国立・国定公園内の生物相豊かな海域を指定した。海中展望塔がある串本や勝浦は有名だが、全国に63か所ある。指定後調査されずにいたので、再調査が目的。積丹半島で潜って唖然とした。あるはずの海藻がまったくないのだ。魚もいない。目立つのはウニだけという異様さ。
積丹海中公園の陸と海。白っぽい岩にウニだけが目立つ
続けて青森県下北半島の仏が浦と鯛島両海中公園に。やはり積丹と同じような状況だったが、鯛島は沖合にあるため、多少海藻は見られた。北海道でも青森でも漁船をチャーターしたのだが、漁師の話では、この現象は「磯焼け」で、数年前から起こっているという。
下北半島の仏が浦海中公園と鯛島海中公園
白っぽい岩肌に付いているキタムラサキウニは、エサを食べてないので商品価値はゼロだという。この調査では、現状をフィルムに記録するとともに、見つけた生きものはできる限り撮影することなっていた。魚ではリュウグウハゼやオキカズナギなどが撮影できた。
「磯焼け」が気になっていたものの、その後もいろいろな海に出かけたためそのままになっていたが、あるとき書店で『森が消えれば海も死ぬ』(松永勝彦著、93年、講談社)を見つけた。この本によると、磯焼けはかなり前から起きていたとある。岩盤から海藻がなくなった現象を磯焼けといい、主な原因は暖流の接近による海水温上昇や、生きものによる食害など。このような場合は状況が変われば再び海藻は生えるという。しかし、岩肌に石灰藻が覆うと付着生物は数十年も住めなくなるらしい。陣取り合戦に敗れたようなものだ。積丹や下北半島はこのような状況だったのだ。石灰藻で覆われた状態を、著者は「海の砂漠化」と形容していいた。
93年7月発行の『森が消えれば海も死ぬ』の表紙
著者は、海藻には鉄が欠かせないという。森から川を通して海に注ぐ水には、腐葉土などからの栄養分が含まれており、その中の鉄分が海藻の生長には重要とのこと。鉄鋼で組み立てた棚を海底に沈めたところ、その周辺に海藻が繁茂したという実験結果も載っている。
森と海の関係は、昔の漁師は知っていたようだ。80年代、気仙沼ではカキやホタテなどの収穫が減少。その原因が上流の森林伐採にあると知り、89年「牡蠣の森を慕う会」を立ち上げ、植林活動を始めたという。植林をしても効果が出るまでは長期間かかるので、それまでは鉄を沈めるのがよいとこの本に記されている。
海の幸を食べたときには、森のおかげと感謝すべきだろう。
ちなみに(財)海中公園センターは、小泉内閣時代の特殊法人見直しにより、02年に解散させられた。