大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

地域変異豊かなトウアカクマノミ(3)

今回はパプアニューギニアPNG)やコモド諸島のトウアカクマノミを取り上げるので、ほぼ全域網羅することになる。

今回の撮影ポイントを記した西部太平洋の地図

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PNGは、ニューギニア島以外にも島が散在している。ニューギニア島の北側に位置するニューブリテン島のキンべ湾(ワリンディ)で出会ったトウアカは、白い模様は日本のものと同じだが、顔がオレンジ色ではなく、全体が黒っぽい。水深2mの砂地のイボハタゴイソギンチャクにいた。

全体が黒っぽいタイプ(PNG・ワリンディ)

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同じPNGでもニューギニア島の東端のアロタウでは、まったく違うタイプがいた。水深約9mの砂地にイボハタゴイソギンチャクがいくつかあり、それぞれに本種が住んでいた。成魚は日本のものに近いが、顔がオレンジではなく、濃い黄色だった。ワリンディのものとぜんぜん違うので、驚いた。

顔が濃い黄色のタイプ(PNG・アロタウ)

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ニューギニア島は東側半分がPNG領で、西側半分はインドネシア領になる。インドネシア領の北部に位置するマノクワリで潜ったとき、水深約10mの砂地にあるイボハタゴイソギンチャクに本種がいた。PNG・アロタウのものとほぼ同じに見えたが、よく観察すると尾柄部にうっすら白い帯があった。

尾柄部に薄い白帯があるタイプ(インドネシア・マノクワリ)

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バリ島の北西にシークレットベイというポイントがある。水深約8mの砂地で、ところどころにウミショウブやアマモなどが生えている。トウアカクマノミは黒っぽい印象でPNG・ワリンディのものに似ていた。しかし、尾柄部の上部に白い斑紋がある個体もいた。二つの系統があるようだ。

黒っぽいタイプ(インドネシア・バリ)

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コモド諸島でのトウアカクマノミは、南エリアの限られたポイントでしか見られない。水深約20mの砂地に数組いてイボハタゴイソギンチャクに住んでいるが、触手が長いイソギンチャクにいる場合もある。調べたらツマリシライトイソギンチャクが最も近かった。トウアカはマブールのものとそっくりだが、尾柄部の白帯は下のほうですぼまる。

以上、世界に分布するトウアカクマノミを見てきたが、同種にもかかわらず外見がかなり違っていることがわかった。「湾」という閉鎖された環境で、それぞれ分化が進んでいるのかもしれない。

最南端のトウアカクマノミインドネシア・コモド) 

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