大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

メギスのメスは一体どこに? 

メギス科のメギスは全長約15cmに達し、和歌山県以南の西部太平洋に分布している。サンゴ礁の岩のすき間などに生息し、用心深い性格にもかかわらず、好奇心も強い。メギスは確か、以前オキナワメギスと呼ばれていたと思う。

メギスのオス(奄美

 

75年発刊の『魚類図鑑~南日本の沿岸魚~』(東海大学出版会)を確かめたところ、メギスとオキナワメギスの両方が載っていた。当時は体色が異なるオスとメスを別種にしていたのだ。研究が進み、85年発刊の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)では、メギスだったものはメギスのメス、オキナワメギスだったものはメギスのオスとなり、オキナワメギスは消滅した。

オスと思える個体で、好奇心が強い(沖縄本島

 

メギスを含むメギス科は、77年にメスからオスに性転換することが海外の研究者によって明らかにされた。幼魚期は全体が緑がかった茶色で、成長すると腹部だけが赤っぽくなるらしい。それがメスの体色なのだが、幼魚もメスも見た覚えがない。一方オスは、全体が赤く、頭部や顔のあたりが褐色をしている。図鑑にある標本写真では体色・斑紋が正確ではないと思い、水中写真の図鑑を探した。ところが、オスだけしか載っていない。いろいろ図鑑や文献を見たが、幼魚やメスは掲載されていない。性転換するのでメスのほうが多いはずにもかかわらず、出会えないのは、きわめて臆病だからなのだろうか。

全体が赤いのでオスのメギス(奄美

 

海外でもメギスを見かけるが、模様が少し違う。別種かと思っていたが、海外の図鑑で調べたら学名は一緒だった。インドネシアのラジャアンパット(ニューギニア島の近く)のものは日本のメギスと似ている。警戒心もそれほどないようで、簡単に近寄れて撮影できた。ただ、やはりオスだけしか出会えなかった。

日本のものと近いメギスのオス(ラジャアンパット)

 

同じインドネシアのコモド(バリ島の東)のものは、模様がかなり違っていた。白っぽい横縞がないのだ。その代わり、暗色の縦縞がある。地域変異ということだろう。コモドでは何度も出会っているが、やはり幼魚やメスは一度も見ていない。一体メスはどこにいるのだろう。

模様が多少異なるメギスのオス(コモド)

 

深場に住み分け アオスジスズメダイ

スズメダイ科のアオスジスズメダイは全長約5cmで、高知県以南の西部太平洋に分布している。黄色ぽい体色で、口から背中にかけて青い筋があるのが特徴。これが和名の由来になっている。もう一つの特徴は、生息場所が水深25m以深ということ。

アオスジスズメダイ(座間味、40m

 

最初に本種に出会ったのは40mだったので、どうしてなのか不思議に思った。それはともかく、深い海底でも青い筋模様がはっきり見えた。輝いているというか、発光しているように感じた。

青い模様が特徴的(座間味、28m

 

本種はほとんど研究されてないようで、図鑑にもあまり載っていない。載っていたとしても情報がとても少ない。分布も琉球列島以南と表記されている場合が多い。ここで高知県以南としたのは、柏島で出会ったからだ。

北限のアオスジスズメダイ柏島40m

 

食性も記されていないが、おそらく雑食性で動物プランクトンや藻類、底生小動物なども食べているのだろう。

前から見ると印象が変わる(西表島28m

 

スズメダイ類は海底のどこかに住みかを構え、産卵も近くの岩や死サンゴなどに行う。本種も例外ではなく、当初は生息場所を浅瀬にしたかったに違いない。しかし、繁栄している魚類で溢れ、空いているところがなかった。強引に入ろうとすれば争いになる。アオスジスズメダイは競うことも争うこともせず、生息場所を深場に求めたのだろう。いわゆる住み分けだ。負け組のように見えるが、決してそうではない。深場で輝く青は、平和の色といってよいだろう。

青く輝くアオスジスズメダイ西表島28m

 

体色変化著しいアオノメハタ 

ハタ科のアオノメハタは全長約40cmで、伊豆半島以南の西部太平洋、インド洋に分布している。サンゴ礁域が主な生息場所。褐色の地に青い斑点が全体に入っていることが和名の由来と思われる。体側後部には白い横帯が5~6本入っているが、薄くなることもある。 

2尾で行動するアオノメハタ(座間味)

 

2尾でいることもよくあるが、オスとメスの見分けがつかないため、ペアなのかはわからない。この2尾は白帯がはっきりしている。 

砂地を移動するアオノメハタ(座間味) 

 

一方で、白帯が薄くて本種かどうかわかりにくいこともある。おそらく体色の変化は、感情と同調しているのだろう。 

体側後部の白帯が薄いタイプ(座間味)

 

一緒にいる2尾が追いかけあったり、じゃれあったりすることも多い。そうした場合は当然体色が変化する。 

じゃれ合う2尾。顔が白っぽくなっている(座間味) 

 

じゃれあうところをしばらく観察していたら、疲れたのか飽きたのか知らないが、3分後に右の個体が砂地で休んだ。そうしたら体色のコントラストが強くなった。一体どれが本当体色なのだろうか。

砂地で休むと体色の濃淡がくっきりした(座間味)

 

オハグロベラ近縁種に和名

 ベラ科オハグロベラ属のオハグロベラは、青森県以南~九州南部、朝鮮半島南部、台湾、中国沿岸に分布している。温帯域に適応したベラで、琉球列島や熱帯海域には分布していない。ところが、1985年に慶良間諸島オハグロベラらしきベラを見つけて撮影した。サンゴ礁域にはいないはずなのに、どうしてだろうと不思議に思った。 

オハグロベラのようなベラ(85年、座間味) 

 

海外の図鑑を調べてみると、オハグロベラの近縁種が2種存在し、学名も付いていることがわかった。94年に発刊された『日本産魚類生態大図鑑』(益田一、小林安雅共著、東海大学出版会)には近縁種2種が掲載され、1種はコッカレルラス、もう1種はスニーキーラスと表記されていた。その後も同じようなベラを撮影したが、どうやらコッカレルラスに該当するように思えた。 

コッカレルラス(88年、座間味) 

 

その後も奄美で、コッカレルラスと出会った。ボートを留めるブイのロープのところにいた。これまでもそうだが、単独だった。伊豆で見るオハグロベラは、生息数が多いため、争いや求愛などおもしろい行動を目にするのだが、コッカレルラスは単独なので、いつも休んでいるか、ゆっくり移動しているだけだった。 

砂地のロープのそばにいたコッカレルラス(96年、奄美) 

 

長年英名のままだったが、昨年標準和名が付いた。キツネオハグロベラだ。鹿児島大学総合研究博物館の研究チームが、屋久島と口永良部島から得られた標本を基に日本初記録種として発表したのだが、和名を考えたのは同研究チームの学生だったらしい。 

本種は成長過程、生息環境、感情変化などで体色・斑紋をよく変えるので、識別するのは難しい。そんな中で、体側に現れる複数の白い線が特徴らしい。とにかく和名が付いたのでスッキリした。 

コッカレルラスからキツネオハグロベラに(13年、座間味) 

 

スミレナガハナダイの体色 

ハタ科のスミレナガハナダイは、全長約10cmになる。駿河湾以南の中・西部太平洋に分布している。主な生息場所は、サンゴ礁外縁の断崖付近。オスは赤紫色で、体側に四角い形をした淡い模様がある。メスは明るいオレンジ色で、目の下に紫色の線がある。オスは数尾のメスを支配するハレムをつくる。 

スミレナガハナダイのオスとメスたち(座間味)

 

オスの体側のピンクの模様が四角いことから、「サロンパス」と呼ばれることもある。

オスは四角い模様が特徴(パラオ

 

本種を含むハナダイ類は、メスからオスに性転換することが知られており、時折体色が違っている個体を見ることがある。たぶん性転換の途中なのだろう。 

性転換の途中と思われる個体(奄美

 

さらにオスに近い体色の個体も何度か見たことがある。ほとんどは本来の生息場所の外縁ではなく、通常のサンゴ礁だ。通常のオスの体色になるのを待ちわびていたが、いつまで経っても変わらない。近くにメスが2~3尾いて、中間の個体は求愛も行う。そして数年後、体色はそのままの姿で産卵を確認した。近くにはライバルオスがいないため、本来の体色にならなくてもいいのかもしれない。 

オスとして行動する、体色は中間の個体(座間味)

 

外縁に生息する本種のオスは、求愛のとき驚くほど体色を変える。ピンクの部分が増え、縞模様のようになる。いわゆる婚姻色だ。薄暗い海中では輝いて見えるため、メスは惹かれるのだろう。 

婚姻色になってメスにアピールするオス(コモド) 


 

 


 

最近の海関連テレビ

 7/30 Eテレ地球ドラマチック」は、ガラパゴスが舞台。海洋学者一家がガラパゴスに滞在し、自然や生きものに接しながら保護の重要性を伝えるドキュメンタリー。最近深刻なのが海洋プラスチックで、有害物質を吸着する性質があるため、その調査チームに同行。プランクトン食のマンタのエサ場でサンプルを採集し、マイクロプラスチックの有無を調べるというもの。プランクトン食の魚が食卓に上ることも多いので、我々人間にとっても大問題で、対策を期待したい。 

地球ドラマチックのマンタ 

 

8/14 Eテレ「サイエンス ZERO」のテーマは海洋酸性化。通常の海水はアルカリ性pH8.1。しかし人間の活動によって増え続ける二酸化炭素が海水に溶け込み、酸性側に傾いているという。最も影響受けるのが殻を持つ生きもので、殻が溶けて薄くなったり、穴が空いてしまうという。2005年アメリカ西海岸でカキの幼生が大量死。酸性化が原因だった。 

アメリカの事例を危機に感じた各国は、ブルーカーボンで対策を取り始め、岡山ではアマモを増やす活動を。べトナムでは、大規模なマングローブの植林を行っている。 

植物に吸収させるブルーカーボン 

 

フィリピンのセブ島では、沖合に海藻を育てるシステムを作った。すばらしい発想だが、どの海域で実現できるわけではない。荒れないことが条件だ。こうした取り組みをしてもまだまだ二酸化炭素を減らすのはごくわずか。さらなる研究と、我々の生活を見直す必要があるのだろう。 

セブ島の海藻生育システム 

 

8/18 テレビ東京「有吉の世界同時中継」は、ミステリーがテーマ。この番組は知らなかったが、事前に担当者から「読売新聞記事を紹介したいので」と連絡があった。 

2015年の新聞で、アマミホシゾラフグが世界の新種トップ10に選ばれたときの記事だ。このフグがミステリサークルを作るということで紹介された。 

新聞記事とともに紹介(有吉の世界同時中継)より 

 

8/18 NHKダーウィンが来た!」夏休みスペシャルは、新種発見がテーマ。というワケでアマミホシゾラフグが取り上げられたが、偶然にも同じ日にテレビ東京NHKに出るとは思わなかった。 

夏休みスペシャルに登場のアマミホシゾラフグ 

 

 

 

勝浦が涼しいワケ 

8月16日、東京都心の気温は午前中に35℃を超えた。これで東京の今年の猛暑日は16日となり、最多記録を更新した。一方、涼しい街として注目されているのが千葉県の勝浦。100年間猛暑日ゼロということで、各テレビ局のワイドショーで取り上げられている。 

日本テレビ 8/17の「スッキリ!」より

 

涼しい理由は、勝浦沖が急に深くなっているため、黒潮の影響もあって深海の冷たい水が表層に沸き上がり、海風が冷気を陸に運ぶかららしい。 

涼しくなるメカニズム「スッキリ!」より 

 

千葉県立中央博物館分館 海の博物館・研究員の川瀬裕司氏が「海の生きもの観察ノート16 千葉県勝浦沖 キンメ場の魚」を著し、6月に送ってくれた。勝浦沖はキンメダイのよい漁場で、地元ではキンメ場と呼ばれている。観察ノートには漁場付近の海底地形や水深も記されている。魚場は水深500m前後で、外側は1000~2000mもある。立縄釣りという漁法でキンメダイを釣るわけだが、他の深海魚も混獲される。そのような未利用魚を博物館に提供してもらい、標本にしているとか。観察ノートには、深海性の見慣れぬ魚が30種掲載されていた。 

「千葉県勝浦沖 キンメ場の魚」表紙と中のページ 

 

勝浦市には勝浦海中公園・海中展望台もある。また、海岸線はダイナミックで、景勝地になっている。特に鵜原理想郷は人気がある。 

勝浦市も過疎化が進んでいるため、移住者を呼び込もうと力を注いでいる。その一環として涼しさをアピールしたポスターを作ったらしい。確かに「猛暑日ゼロ」は魅力だ。 

勝浦にある景勝地鵜原理想郷