大方洋二の魚って不思議!

写真を通して魚類の生態や海について考える

第39回水中映像祭を見て

4/14(日)江東区文化センターに於いて、水中映像サークル主催の水中映像祭が開催された。今回上映されたのは、次の6作品。「あの日あの時」松村英典、「バリ島2023」岡野和之、「水中映像サークル会員の撮影機材」合同作品、「冬の大瀬崎」林保男、「SLOW MOTION」横山和男、「水中ナイトビジョン~夜の水中で赤外線撮影してみた!~」梅野朝年。

39回水中映像祭の案内状と上映前の会場

 

今までなかった題材だったのが合同作品で、会員が使用している撮影機材の紹介だ。さまざまな機材が発売されたり、機能も格段に進歩していて驚かされた。ただ、ライトや他の付属品をたくさん付けることによって大きくなり、機動性や魚類への接近度が心配になった。

「冬の大瀬崎」は動画で、丁寧に撮っていると感じた。深海性のソデイカや珍しい幼魚などに心を奪われた。

岸辺に打ち上がっていたが、深みに戻るソデイカ

 

最後の2作品は、新たな試みをしたもので、表現方法に新風を吹き込むかもしれない。

SLOW MOTION」は通常に撮影した動画を編集ソフトで全編スローモーションにした作品。全体的に映像はきれいだったが、スローの効果がわかりにくいものが多いと思った。すごい速さで動くのでわかりにくい生きものの行動を、スローにして見せるという被写体選びが大切だろう。ミノカサゴも出てきたが、ふだんもゆっくりなので、スローにする意味がないと思った。

SLOW MOTION」のタイトル

 

「水中ナイトビジョン…」は動画で、赤外線の特徴や撮影機材の説明も入れ、生物に感じない赤外線ライトを当てて撮影。確かに通常のライトを当ててパワハラまがいの撮影に比べればやさしいことは間違いないが、モノクロになってしまうのが惜しいところ。本当に貴重な生きものを狙えば、赤外線撮影も活きるのではないだろうか。こうした新しい試みに挑戦することは素晴らしいので、今後もチャレンジしてほしい。

最後に感想を求められたが、意見がまとまらないまま話してしまった。それにしても参加者が少なかったので驚いた。こうしたことに関心を持つ人が少ないのはとても残念に思う。Zoomによる参加も可能にしたということだが、遠方ならともかく、近くなら実際にスクリーンで見てほしいものだ。

「水中ナイトビジョン…」のタイトル

 

ヒメウツボの謎

ウツボ科のヒメウツボは全長約25cmになり、八丈島以南の太平洋、インド洋に分布している。1953マーシャル諸島ビキニ環礁で得られた標本を基に新種記載された。日本では90年代に伊豆諸島や沖縄で撮影された写真がダイビング雑誌に載り、英名のゴールデン・モレイと呼ばれていた。

小型種のヒメウツボ柏島

 

1998年に八丈島から得られた標本を基に日本初記録として『伊豆海洋公園通信』で発表。新称ヒメウツボが提唱された。したがって、97年初版の『日本の海水魚』(山と渓谷社)には載っていない。

図鑑に載ったのは最近のヒメウツボ奄美

 

ヒメウツボは生息数が少ないうえ、警戒心も強いために出会える機会はとても少ない。これまで出会った海を振り返ってみると、座間味、奄美柏島3か所だけだ。体色は黄色か茶色だが、黄色が多いようだ。体色はもともと2パターンあるのか、それとも変化できるのかわかっていない。薄い茶色の個体を見たことがあるので、変えられるという可能性もある。

薄い茶色の個体(柏島

 

警戒心が強いと思っていたにもかかわらず、目の前で岩のすき間から出てきたことがある。もちろん個体によって性格は異なるのかもしてないが、このときはビックリした。

全身を出した茶色の個体(座間味)

 

ヒメウツボは決まって単独でいる。同じ海域で別個体も見たことはない。ではどのようにして異性を見つけ、繁殖するのだろうか。実に謎が多いウツボだ。

謎多きヒメウツボ奄美

 

東京スカイツリー物語 

NHK総合テレビで「新プロジェクトX ~挑戦者たち~」が始まった。第1回目(4/6)は「東京スカイツリー 天空の大工事~世界一の電波塔に挑む~」。世界一高い電波塔建設に挑む人たちの物語だ。とても感慨深く、そして懐かしく思いながら見た。というのも、以前はスカイツリーが見えるところに住んでおり、徐々に伸びてゆく姿をいつも見たり撮影していたからだ。

新プロジェクトX のタイトル

 

そもそも新たな電波塔が必要になったのは、東京タワーの周囲に高いビルが建ったため、電波が遮られるようになったからだ。そこで2倍の高さの塔を計画するが、予定地は東武鉄道北十間川の間の狭い場所。設計を工夫するしかない。前代未聞のプロジェクトが始まった。五重塔に使用されている心柱を入れて地震対策をしたり、土台は三角形ながら、上に行くに従って丸くなるという設計を取り入れた。

予定地の俯瞰図。楕円が東京スカイツリーの施工範囲

 

着工が始まったのは2008年秋で、当初は土台の部分はフェンスに隠れていたため、何をしているかわからない状態で、近所の人が散歩ついでに見た、という感じだった。

着工が始まった(200811月)

 

工事が進み、徐々に高くなるにつれて、強風や雷などが脅威になり、幾度となく作業は中断したようだ。とはいえ、遠くからでも見える高さになると、報道もされるようになり、見物する人も次第に多くなった。

心柱の部分が公開(20103月) 下、だいぶ高くなった(20105月、駒形橋より)

 

2011311日、東日本大震災が発生するが、スカイツリー完成間近のことだった。そのとき関係者たちは、最上階で3000トンもあるゲイン塔(電波を送受信する要)の吊り上げ作業中。突然横に5mの揺れに見舞われ、塔が倒れて死ぬんだ、と思ったと、関係者の一人は語った。

偶然にもこの日の午前、ぼくは確定申告書の提出でスカイツリー近くの本所税務署へ行き、帰りは浅草通りを歩いた。通りは行列のようになっていたので、スカイツリー効果と思って写真を撮った。

浅草通りを行く人々(2011311日)

 

東日本大震災から1週間後、東京スカイツリーの塔自体は完成した。建設にかかわった人は述べ58万人だという。あとはすみだ水族館ソラマチなどの関連施設および周囲の整備などの工事、スカイツリーのライティングテストを行い、2012522日に開業した。実は、同年56日に隅田川で「東京ホタル」というイベントがあり、LEDライトを点けた「ホタル」を流した。そのとき開業前にもかかわらず、スカイツリーのライティングが点灯。粋な計らいに大勢の人が感激したのを覚えている。

番組の最後に流れたテロップを見て驚いた。撮影の名が知り合いのKさんだったからだ。正確にはこの後知り合いになった。20126月の奄美ロケで、「潜水班」のKさんと初めて会ったのだから…。

東京ホタルの様子(201256日、駒形橋より)

 

 

マリンダイビングフェア2024

4/5(金)より池袋サンシャインに於いて、マリンダイビングフェア2024が開催された。主催会社が代わって3回目で、コロナも収まったこともあり、出展社も入場者もだいぶ増えていた。ただ、海外のダイビングサービスがまだそこまで余裕はないようで、以前より少なかった。

マリンダイビングフェア受付

 

今回の入場者に配付された「Marine Diving」。マリンダイビングフェア2024ガイドとして会場案内やステージプログラムなどの他に、海外や国内のダイビングエリアの紹介や、最新のダイビング器材、水中カメラなどの広告が掲載され、ダイビング雑誌を彷彿させる内容だ。

無料で配布された「Marine Diving

 

水中撮影機材もかなり進歩していた。ソニー用のこのハウジングは、通常のズームレンズに特製ワイコンを付けてドームポートをかぶせると、収差もない超ワイド写真になると説明を受けた。確かにすごいが、値段も90万円とすごかった。

最新で高価なハウジング

 

このようなイベントを多くのダイバーが待ちわびていたようで、平日にもかかわらず、だいぶにぎわっていた。そのお陰もあって、およそ30名のダイバーと挨拶や話しができた。

にぎわう会場

 

ガイド会の写真展も行われていた。どれも素晴らしかったが、生態的にもよいと思ったのが、鹿児島のダイビングショップ SBの松田康司氏が撮影した、ワカウツボの産卵上昇だ。メスの腹部がかなり膨れており、産卵直前の腹部の様子がよくわかった。

マリンダイビングフェアは4/7(日)まで行われる。

松田氏撮影のワカウツボの産卵上昇の写真

 

シルエット写真の魅力 

影絵のようなシルエット写真は、見た瞬間心に残る。インパクトがあるからだ。色や質感は省略しているため、生物写真としては向かないが、普通の写真の中に1点入ると、かなり存在感を増す。水中写真の場合、海底から水面方向にカメラを向け、逆光状態で生物などを入れて撮れば、簡単にシルエット写真になる。もちろん照明は当てない。

ハナヤサイサンゴの仲間(コモド)

 

シルエット写真を撮るうえで注意したい点は、形がおもしろいものや複雑なものを選ぶこと。魚の場合は輪郭でわかるものが望ましい。ミノカサゴ、マンタ、アカモンガラなどが向いているが、向きにも注意が必要だ。

ツバメウオ(座間味)

 

座間味のサクバル漁礁というポイントで、コンクリートブロックに付着したサンゴがかなり大きくなっていた。比較的成長が速いミドリイシの仲間だ。確かな年数は不明だが、10数年は経っているだろう。ストロボを当てて普通に撮ったのが下の小さな写真。それを真下から撮ってみた。

ミドリイシの仲間(座間味)

 

風景の中に主役の魚を配し、シルエットで撮ってみた。通常は照明を当てて撮ることがほとんどなので、一風変わった写真になった。

ウミシダとヤシャベラ(奄美

 

海底断崖から枝状サンゴが伸びていた。小魚が隠れ場所として利用している。シルエットで狙っていたら、ダイバーが通った。サンゴだけなら造形、アート系の写真になるが、人物や小魚が入ることによって「生活」「文化」「温もり」などの要素が加味される写真になるから不思議だ。

枝状サンゴとダイバー(ラジャアンパット)

 

ミツボシモチノウオの繁殖生態

ベラ科のミツボシモチノウオは全長約20cmになり、屋久島以南の太平洋、インド洋に分布している。新種記載されたのは1853年で、日本で生息が確認されたのは130年後の1983年。沖縄・慶良間諸島で標本が採取された記録がある。だが、精査が進まなかったようだ。80年代中ごろになると、多数のダイバーが撮影するようになった。英名はスヌーティーラスまたはスヌーティーマオリーラスだったので、ダイバーの間では英名で読んでいた。

97年発刊の『日本の海水魚』(山と渓谷社)初版では、モチノウオ属の1種とあり、スヌーティーマオリーラスに酷似するが、標本が得られていないので同定できないと記してあった。慶良間の標本が共有されていなかったのだろう。ちなみに2005年の3版では、和名になっている。

転石帯で行動するミツボシモチノウオ(奄美

 

体色は赤茶色で、体全体に白い斑点があったり暗色の不規則な模様があるものもいるが、個体によって異なったり、変化させることもある。また、体の後部に黒点3個あり、これが和名の由来になった。しかし、黒点が目立たないものや数が異なる個体もいる。サンゴ礁と砂地の境界付近や転石帯で見られる。

体色にバラつきがあるミツボシモチノウオ(座間味)

 

繁殖期は初夏から夏のようで、6月に奄美で、7月に座間味で産卵を観察した。その前に雌雄については、外見にほとんど違いはない。オスのほうがやや大きい。産卵の時間帯は他のベラ類と同じで、奄美では午後2時くらいだった。オスがメスのそばに行ってアピールし、メスがオスを気に入れば並んで上昇し、放卵・放精して素早く海底に戻る。

雌雄並んで上昇(奄美

 

座間味での繁殖行動の時間帯は午後4時半くらいだった。やはりオスがメスに近寄り、気が合えば並んで上昇する。ベラ類にしてはゆっくりなので、撮影は比較的しやすい。

産卵上昇するペア(座間味)

 

放卵・放精の瞬間はタイミングが難しいが、何とか撮影できた。とはいえ、ミツボシモチノウオの生息数はそう多くないようで、その後はあまり出会っていない。生息場所の転石帯などは、競合する魚類が多いため、住み分けを余儀なくされたのかもしれない。

放卵・放精の瞬間(座間味)

 

春はアケボノ・ハゼ

ようやく本格的な春が来た。この時季よく耳にする「春は、あめぼの」。枕草子の一節で、春は明け方が一番趣があっていい、という意味らしい。ということで、強引にアケボノハゼを取り上げる。

アケボノハゼはハゼ科で、全長約8cmになり、伊豆諸島以南の太平洋、インド洋に分布している。日本での生息水深は3555mとされているが、海外ではもっと浅いところで見られる。

アケボノハゼ(奄美

 

初めてアケボノハゼを見たのは座間味の外洋で、40m近かった。伊江島でも同じくらいのところで撮影した。その後マレーシアのシパダンを訪れたとき、水深10mにいたので驚いた覚えがある。

新種記載されたのは1973年で、日本では1980年ごろ沖縄本島西表島で生息確認された。当時は観賞魚としてフィリピンなどから輸入されていて、英名のパープルファイアゴビーより学名のデコラと呼ぶ人が多かった。

84年発刊の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)で初めて和名が提唱された。解説を書かれたのが皇太子時代の上皇様で、アケボノハゼの命名には美智子様の助言があった、というのはよく知られた話だ。

84年に和名が付いたアケボノハゼ(座間味)

 

高知県柏島の対岸の勤﨑(つとめざき)というポイントは、急に深くなっていて珍しい魚がとても多い。アケボノハゼがいるというので狙ったことがあった。やはり30mを超えていた。

アケボノハゼ(柏島

 

沖縄などでわりあい深いところに生息する魚が、奄美では比較的浅いところで見られる傾向がある。アケボノハゼも同様で、奄美に通い出したころは水深30mで出会ったが、その後は水深20mより浅いところに出現したことがたびたびあった。、

水深18mにいたアケボノハゼ(奄美

 

10年くらい前に柏島でダイビングイベントに参加した際、数日残って雑誌用の撮影した。そのときも勤﨑でアケボノハゼを撮った。珍しく砂地にいて、体はやや小さい。そばにコウライトラギスがいたので何か起こるかとしばらく待ったが、何もなかった。それでも小さな個体を見るのは初めてだったので、うれしい気がした。

コウライトラギスと約5cmのアケボノハゼの若魚(柏島